「時空間DB」で多機能な地図機能を提供するゼンリンの戦略とは

ジオ展2022基調講演

地図・位置情報関連の企業やサービスが一堂に会する展示会「ジオ展2022」から、株式会社ゼンリンの事業統括本部モビリティ事業本部 モビリティ営業四部営業二課 馬場翔也氏による基調講演「ゼンリン地図DBとZENRIN Maps APIの活用について」の内容をレポートします。

株式会社ゼンリン 事業統括本部モビリティ事業本部、モビリティ営業四部営業二課、馬場翔也氏。最近の自慢はプロ野球の千葉ロッテマリーンズ、佐々木 朗希選手の完全試合を観戦できたことだそうだ

観光小冊子から生まれたゼンリンの主力業務は「地図調整業」

今でこそゼンリンと言えば地図というイメージが強いですが、その設立は1948年。創業当初は大分県別府市の観光小冊子を発行していました。この観光小冊子の巻末に添えた市街地図の評判がよいことを受けたことで、地図が単なる添え物ではなく重要な情報源となることに気が付き、ここから地図関連の業務に転換していきました。

1948年創業、ゼンリンの起源は大分県別府市の観光小冊子発行事業だ

ゼンリンの名前から地図を思い浮かべる人は多いと思いますが、同社では地図その物を制作、発行しておらず、現在の同社は地図に記載する内容を整備したり、現地を調査して地形図に情報を付与する「地図調整業」が主な業務です。

地図の制作ではなく、地図の中味を整備する「地図調整業」が主な事業となっている

地図データは幅広い用途で使われています。国や自治体向けには防災用途の地図データを、ゲームメーカーには位置情報ゲームなどで使われるような特定ポイント情報のみチェックされた特殊な地図データ、地図サービスの会社には各社が提供する地図ポータル用の地図、地図の出版社には住宅地図DBなどから出版する地図の用途に応じて、また、カーメーカーおよびカーナビゲーションメーカーなどに向けてはナビゲーション用の地図データと、それぞれの用途に合わせて調整された最新の地図データを販売しています。

馬場氏によると、ゼンリンの強みは同社の提供する「ゼンリン地図データベース」としています。全国に徒歩、車両などで調査する調査網を構築し、一軒、一軒現地に行って情報を収集。建物については部屋番号や表札、テナントなどの情報をチェックして収録、都市部では年に1回のローラー調査、その他の地区では2~6年ごとに更新を行なっています。日本全国1,741市区町村の住宅地図を網羅的に整備し、かつ一定のペースで更新を行なっているところが、同社の強みの1つです。

主要都市部は年1回、その他の地区では状況に応じて2~6年ごとに更新を行っているという

顧客の要望に応じて位置情報をカスタマイズして提供

こうして収集した情報は同社の持つ住宅地図DBに登録され、要望に応じてカスタマイズして販売します。例えば、カーナビで使用する地図データベースでは、道路情報をノード(点)とリンク(線)の道路の繋がりのネットワークデータとして整備し、カーナビシステムが扱いやすいような仕組みとなっています。また、新たに開通した道路や、新たに更新された道路の交通規制情報などについても、車両で現地を走行することでこれらの情報を収集しています。


住宅地図DBでは建物形状や表札、住所、建物階数などの情報が含まれ、ナビ地図DBでは交通規制情報を含み、カーナビのシステムで使うため、道路情報をノード(点)とリンク(線)のネットワークデータとして収録される

住宅地図DBでは建物形状や表札、住所、建物階数などの情報が含まれ、ナビ地図DBでは交通規制情報を含み、カーナビのシステムで使うため、道路情報をノード(点)とリンク(線)のネットワークデータとして収録される

 また、カーナビ以外のスマートフォンなどでも使われるドアtoドアのナビゲーションを実現するために、建物の出入り口情報である、「建物到着地点(APPENDIX)」も整備しています。これは大きなビルなどにナビゲーションで移動した際に、目的地に到着したら出入り口が反対だった、目的地が川の向こうだったといったズレを解消するために、前述の住宅地図の情報の1つとして、現地調査で出入り口の情報を取得しておくものです。これを活用することで、的確に目的地の出入り口までナビゲーションできるようになっています。

ドアtoドアのナビゲーションのために建物の出入り口情報「建物到着地点(APPENDIX)」を追加

時代が変わり、出版用の地図やカーナビ以外にも技術の進化に伴い、地図の用途も変化していきます。例えば、人の見る地図から機械やAIが参照する位置情報基盤への進化、様々な情報を紐づける空間情報におけるプラットフォームの提供、情報流通促進のために、他業種とのパートナーシップを強化するなど、ゼンリン自身も刻々と変化する時代のニーズに対して、位置情報を活用したソリューションを提供していく必要があるとしました。

最新の技術トレンドに対応すべく、ゼンリンは各社の課題に、“位置情報”を活用したソリューションを提供していくとした

ゼンリンの新たな地図DBシステム「時空間DB」

こうした時代のニーズにスムーズに応えるため、近年、同社ではこれまで用途に応じて構築していた各地図DB基盤を、1つのデータベース上に集約する新たな情報プラットフォーム、「ZENRIN Information Platform(ZIP)」を構築する取り組みを推進しています。これにより情報収集から提供までの整備行程が大幅に削減可能になったとしています。

具体的には全ての地物に同社独自のパーマネントID(ZID)を付与。これに各種データを紐づけて管理する仕組みにすることで、情報のID連携を可能にしています。例えば複数のテナントが収容されるような大型ビルの場合、ビル自身のZIDのほか、各階に入ったテナント毎に個別のZIDを付与、テナントの変化などにも対応できるような仕組みになっています。

同社独自の管理用パーマネントID(ZID)をすべての地物に付与

こうして構築したデータベースを同社では「時空間DB」と呼び、このデータベースを活用したサービスとして、2020年12月から「ZENRIN Maps API」の提供を開始しています。時空間DBを活用する事で、地図描画などのマップ機能、地図上のエリアやポイントなどの各種情報を検索するサーチ機能、住所の名称変更などのクレンジング機能や、エリア内の統計データの抽出が行なえるデータコーディング機能、ルート検索やナビ機能が使えるルート機能といった、利用者のニーズや課題に応じた機能を実現できるとしています。

これまで個別に管理していた各地図DB基盤を1つのデータベース上に集約する新たな情報プラットフォーム「ZENRIN Information Platform(ZIP)」を構築。これを同社では新たな地図システム「時空間DB」と呼ぶ

マップ機能では、通常の道路地図や市街地図の描画だけでなく、建物のテナント情報も閲覧可能な住宅地図や、約25年前まで遡って地図の情報が確認できる過去地図機能などが利用できます。他にも農地や住宅地といった用途別情報を付与した用途地域地図や、地価情報を付与した地図など、利用者のニーズや課題に対して柔軟に対応できるそうです。

ルート機能では通常のルート探索以外にも、冬季の道路規制や、時間帯による道路規制を考慮したルート探索などの機能が利用可能です。また、配送業者やルート営業の業者向けに、複数の訪問先を効率よく巡回できる「最適巡回順並び替え機能」も実装しています。

ルート機能は時間帯の道路規制などを考慮したルート探索が可能

データコーディング機能では、住所表記が変更になるなどの情報をZIDや旧住所の情報からチェックし、正確な住所に変換したり、番地などの数値の全角、半角など異なる表記フォーマットを統一したりといったクレンジング機能が使えます。他にもエリア内の特定条件で集計したデータの抽出などが行えます。サーチ機能では地名での検索だけでなく、施設の情報で検索するなど、様々な利用が可能です。

データコーディング機能では、住所表記のクレンジングも可能だ
データコーディング機能はエリア内のデータ集計などが行える

最後に馬場氏は、今後もゼンリンは日々変化する技術トレンドに対応すべく、IoT技術により取得するセンシング情報を地図情報と融合させ、今後も市場ニーズに対応していくと語り、講演を締めくくりました。

なお、ゼンリンは北九州・小倉に地図文化の継承と振興を目的とした地図の博物館「ゼンリンミュージアム」を4月19日にオープンしました。季節ごとの特設展示やイベントなどもあるため、地図の歴史に興味のある人は伺ってみてはいかがでしょうか?

URL

総合トップ | 株式会社ゼンリン
https://www.zenrin.co.jp/

ゼンリンミュージアム | ZENRIN MUSEUM 歴史を映し出す地図の博物館
https://www.zenrin.co.jp/museum/

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