ジオ専業ライターが選ぶ「ジオ界 10大ニュース」イベントレポート
地図位置情報関連の企業やサービスが一堂に会する展示会「ジオ展2022」から、ジオ専門ライターの片岡義明氏による記念講演「勝手に選ぶ 2021-2022 ジオ界隈10大ニュース!」についてレポートします。
2021年4月から約12ヶ月の期間による重要ニュースを選出
記念講演に登壇したのは、地図や位置情報に関する国内の最新ニュースを配信する「GeoNews」を主宰するジオ専門ライター の片岡義明氏。片岡氏には本メディア「graphia」での解説記事やインタビューでも寄稿いただいています。
今回は前回のジオ展2021から約1年間、2021年4月24日から2022年4月22日の期間で、ジオ展を主宰する小山文彦氏と共同で選出した10大ニュースが発表されました。
第10位:移動するだけでポイントがたまるマイレージアプリ「Miles」サービス開始
スマホの位置情報を活用して移動距離を測定してポイントを配信する、いわゆる「ポイ活」アプリの「Miles」。同じようなアプリでは「トリマ」が有名ですが、新たに参入したのがシリコンバレー発の企業であるMilesでした。
片岡氏は「海外サービスがこの分野に参入してきたのには驚きました」とコメント。「Miles」にとって日本は初めての海外進出ですが、日本を初進出先として選んだ理由は「日本人はポイ活への関心が高いから」とのこと。なお、日本法人のCEOは元Uber日本法人の社長高橋正己氏が務めています。
「Miles」では得られたポイントでクーポンなどの特典が得られ、特典経由で上がった売上の一部を得る売上エンドモデルと、総客数に応じて手数料を得るモデルの二つのビジネスモデルを採用しています。サービス開始時点で83社108の特典が用意されていて、特にファミリーマートのコーヒーが無料になるということで話題になりました。他に伊藤園、akippa、JALPAK、GPSウォッチのGarminが安く買えるクーポンなどもあります。
サービス開始から4週間で100万ダウンロード達成し、先日初めて人流分析も公開しました。「Miles」で得た匿名の位置情報を集計することでユーザー帯の移動距離推移が分かります。「入れておくだけでポイントが貰えるポイ活アプリ、是非使ってみてください」と片岡氏もお勧めしていました。
9位:X-Locations、全国の店舗位置データを網羅 業界別の人流変化トレンドをWebサイトで一般公開
「業界別人流トレンド」は、X-Locationsの位置情報ビッグデータ解析エンジン「Location Engine」を使用して主要業界の店舗・施設周辺の人流の状況をグラフなどにまとめたもので、X-Locationsのサイトで見ることができます。
コンビニ、スーパー、ホームセンター、ファミレス、ドラッグストア、家電量販店と13業界について全国の店舗が網羅されていて、昨日比や昨年比も分かります。こういう業界別のトレンドデータは他にあまりなく、全国の各店舗位置情報データを基にした分析データというのは国内初だそうです。
X-Locationsのグラフの元になっている「業界別の推計来訪数値データ」も3月に発売されいて、このデータを利用することでユーザーの動向分析や店舗周辺での人流の違いを把握でき、リアルとデジタルを連動させた取り組みも可能になるということです。片岡氏は「X-Locationsは独自の人流解析技術を利用したソリューションを色々発表されていますが、今年、来年どういうサービスが発表されるか楽しみですね」とコメントしました。
第8位:地図アプリ「Yahoo!MAP」が続々と機能強化
Yahoo!が提供している「Yahoo!MAP」の地図表示システムが2019年にMapBox社製に変わり、その後も様々な機能強化が図られています。今年は新型コロナ関連だけでなく、全国のラーメン店やクーポンを検索できるラーメンマップ、クーポンマップ、他にもクリエイターがおすすめする地域のおすすめテーママップなど、特定のテーマに絞った様々な地図コンテンツが提供されています。
これらは単に地図上にアイコンを表示するだけではなく、コロナワクチンマップであればワクチン接種と関係性の薄い飲食店などの情報を非表示や目立たなくしたり、ワクチン接種会場や医療機関を目立たせて地図上で表現していますが、これらの作業はMapBoxの地図表示システムを採用したことで格段に容易になり、開発期間も短くなったそうです。
これまでカーナビを利用する場合は 「Yahoo!カーナビ」、公共交通機関は「Yahoo!乗換案内」に切り替えて検索する必要がありましたが、去年9月のアップデートでこれらの機能を「Yahoo!MAP」上で使用できるようになりました。
片岡氏は「Google マップにはない機能がかなりある地図アプリとして存在感が大きくなってきたかなという気がします」と評価した上で、「『地図中心』という雑誌の2022年6月号に『地図づくり最前線』という連載でYahoo!MAPを紹介する予定なので読んでいただけると幸いです」と補足しました。
第7位:「日本バス情報協会」設立
「日本バス情報協会」は標準的なバス情報フォーマットである「GTFS-JP」や公共交通オープンデータの普及に向けて活動している組織で、バス利用者への情報提供やGTFS-JP データの更新と質の向上、経路検索サービス以外のバス情報の利活用を行なっていきます。
片岡氏は「代表理事の伊藤先生は以前から『標準的なバス情報フォーマット広め隊』を結成して活動されていたんですが、いよいよ正式な協会として始まったということで、今後の取り組みがとても楽しみです」と説明しました。
第6位:マップボックス・ジャパン、国内の地図サービス業者7社と「マップアドネットワーク」を立ち上げ
昨年の8月24日、MapBoxや地図サービスの企業7社とともに広告配信で連携する「マップアドネットワーク」が立ち上がりました。
参加企業はヤフー株式会社、株式会社ゼンリン、ジョルダン株式会社、株式会社ナビタイムジャパン、株式会社駅探、ジオテクノロジーズ株式会社、株式会社マップルの7社。同ネットワークへ配信する「Mapbox広告プラットフォーム」を独自開発するとともに、地図ネイティブ広告を提供する「Mapbox広告」のベータサービスを提供開始しました。
地図事業者間で連携することにより、地図サービスの収益化を支援することを目的としたもので、単体で広告事業を展開するよりも掲載する広告の量が増加し、各ユーザーへ最適な広告を届けることが可能となります。
「Mapbox広告」では、地図アプリや地図サービスに自社ブランドのアイコンやバナー、関連情報を掲載し、認知の向上と行動喚起を促進する仕組みで、片岡氏は「こういう試みは世界でも珍しいので日本初の試みとして是非頑張っていただきたいと思います」と応援のコメントを贈りました。
第5位:みちびき初号機後継機の打ち上げ成功
みちびきの初号機が打ち上げられたのは2010年で、設計寿命を超えて11年半にわたって使用され、今後は待機衛星として使用されるそうです。今回初めて後継機に入れ替わったということで、今後は絶えず維持・更新していくサイクルが出来上がりました。2023年度には7基体制を目指しているそうです。
みちびきについては色々と動きがあり、昨年12月にはSLAS・SBAS対応の小型空撮ドローン「SOTEN(蒼天)」が発売されました。「国産ドローンなので今後色々なシーンで見かけることが多くなると思います」(片岡氏)。
センチメータ級測位補強サービス(CLAS)については、携帯電話でGNSSの誤差補正情報を配信して高精度測位が実現できる、いわゆる「LTE-RTK」をドコモやソフトバンクが提供しています。
片岡氏は「LTE-RTKはCLASにとって大きなライバルとも言えるが、中山間地域や地方の道路では携帯電話が入らない所が結構ある(ためLTE-RTKが使えない)こと、CLASは受信機さえ買ってしまえばランニングコストがかからないというメリットが注目されています」と解説。「昨年から今年にかけてCLAS対応の受信チップが続々リリースされています。これが従来よりも小さくて安いため、今新たな段階に来たのかなと思います」との見解を示しました。
CLASは昨年11月に補強対象衛星数が9機から17機に増えたことで安定して精度も良くなり、片岡氏は「いよいよCLASがきたかなという気がしています」とコメント。日産の「アリア」という自動車にもCLASのアンテナが搭載されており、自動車への搭載例も今後は増えてくるのではないかと思います」と付け加えました。
第4位:Geolonia、地図作成サービス「Geolonia Maps」正式版を提供開始
Geolonia Mapsは、オリジナルの地図を自由に作成できるサービスで、片岡氏は「地図業界にとってもニューカマーになります」と紹介。オープンストリートマップと国土地理院データを組み合わせており、低コストで利用上の制約が少ない、自由度の高い地図プラットホームが特徴です。
他にもGeoloniaは不動産テック協会と取り組んでいた「不動産共通ID」の正式版を10月に開始しました。利用は無料で、緯度・経度を取得できる有料APIも用意しています。日本の住所によくある表記揺れが非常に多いという課題に対し、同一の物件を示す情報に共通の ID を付与することで物件の特定が容易になり、データ連携にかかるコストも削減できます。
Geoloniaは2020年に住所マスターデータをオープンデータとして公開しており、さらにベクトルタイル形式の地図開発を支援するツールも3月に発表しています。片岡氏は「素晴らしい取り組みだと思います」とコメントしました。
選外ながら注目のジオニュースを一挙に紹介
ランキングとしては選外ながら、専門性が高く注目のニュースも発表されました。ここではニュースのタイトルのみをご紹介します。
- 見守りデバイス各社から続々登場&リニューアル
- 日本地図センター、古地図アプリ「関西時層地図」を提供開始
- 古地図アプリ「大江戸今昔めぐり」が対応エリアを拡大、第一弾は川越市と静岡市
- 「MIERUNEマップ」が地図デザインを刷新、提供範囲を世界全域に拡大
- MetCom、スマホで建物内のフロア位置を高精度で特定する「垂直測位サービス」を提供開始
- スカイマティクス、多彩な地図表現を自動化するクラウドサービス「SEKAIZ」を提供開始
- イトナブ石巻のPenさん、みんなのトイレマップ作成
- 「地理総合」必修化に関連した話題(インフォマティクス、必修化に向けた実践事例を公開) HackCampによるオンライン地理空間情報学習研修「Geospatial Hackers Program 2021」を開催
- 日本学術会議 地理教育分科会と日本地理学会が「地理総合」の課題に関するアンケート結果を発表
- 「地理総合オンラインセミナー」を開催
- 国土地理院、「イラストで学ぶ過去の災害と地形」を公開
- 地理院地図、今年も色々と進化(過去の空中写真を、スライダーで年代別で切り替え表示)
- ヤマップがベクトルタイル採用の「新・ベーシック地図」を提供開始
- 朝日航洋、LGWAN内での地理院タイル配信サービスを提供開始
- ナビタイム、自転車のプローブデータをもとに走行状況を分析できる「自転車プロファイラー」を提供開始
- ゼンリン調査スタッフユニフォームが刷新
第3位:バーチャルシティ(都市連動型メタバース?)続々登場
昨今流行しているメタバースの文脈で「都市連動型メタバース」という風にも言われることもありますが、現実の街並みを仮想空間上に再現したものを指しています。コロナ禍の影響か、去年から今年にかけて多くの「バーチャル〜」というサービスが登場しました。
去年の7月に「バーチャル宮下公園」が公開され、今年の2月には「京都館PLUS X」が宮下公園のバーチャル空間に出展されています。片岡氏は「京都のバーチャルシティを作り客を呼ぶのではなく、宮下公園のバーチャル空間を訪れる人に京都をアピールするという形なのは面白いかなと思いました」との感想を述べました。
他にも札幌市公認の仮想空間「PARALLEL SAPPORO KITA3JO」、4月に発表された「バーチャル秋葉原」、ほかにも「あつまれどうぶつの森」の「JTB島」などさまざまなバーチャルシティが公開され、さらにKDDI、東急、みずほリサーチが参加した「バーチャルシティコンソーシアム」も登場しています。片岡氏は「今後はデジタルツインのデータを利用したバーチャルシティ作りも進んでいくのでしょうか」との見解を示しました。
第2位:衛星データ可視化・分析ツールが続々登場
去年から今年にかけて、衛星データの可視化分析ツールが続々登場しました。Google Earth Engineを使ったアプリとして、RESTECの可視化ツール「VEGA」や、JAXAの軽石の情報サイトなどが公開されたほか、Ridge-iは軽石の漂流状況を衛星データで可視化出来るアプリ「軽石ビューア」をいち早く公開しました。これはスライダーを左右に動かして、衛星画像を比較して軽石の場所を探れる便利ツールです。
他にも衛星データ解析で有名なOrbital insightが日本で分析ツール「Orbital Insight GO」を提供したり、さくらインターネットの「Tellus」は駐車場の候補地を探せる「Tellus VPL」など色々なツールを出しています。「Tellus」は昨年10月にVer 3.0が提供開始され、これにより衛星データの売買が可能になりました。
衛星データを扱う企業と今まであまり宇宙と関係がない保険や銀行などの企業とのコラボも増えてきました。片岡氏によれば、金融業界では、いわゆる統計や財務情報などの伝統的に使われていたデータ以外の新しいデータとして、地球観測衛星データが注目されているとのことです。
他にもスエズ運河の座礁、熱海の土砂災害、福島県沖の地震など災害時に被災地の衛星データが公開されていますが、現在、最も大きく注目されているのはウクライナに関する衛星画像です。
ビジネスや教育の分野で手軽に分析する可視化ツールで衛星データが使えるようになったことで災害や戦争や色々な分野で衛星データが活用されるようになりました。「片岡氏は」ウクライナについては Google マップの渋滞情報からロシアの進行のタイミングがわかったとか地理空間情報がいろいろと関わっていますが、衛星データを含めてこういった地理空間情報が悪い使い方ではなく、戦争終結や戦後の復興に貢献することを期待しています」と語りました。
第1位:デジタルツインのデータ活用ツールが続々登場
東京都が「デジタルツイン実現プロジェクト」「デジタルツイン3Dビューア」 や、混雑情報がわかるアプリ「TOKYO DigitalTwin Smooth NAVI -大手町・丸の内・有楽町地区版-」を提供したほか、アナザーブレインもプラットフォームサービス「toMap」を提供開始しています。
さらに「Re:Earth」がオープンソースソフトウェアとして公開されたり、キャドセンターもビューワーを提供開始しました。インフォマティクスはGISエンジン「GeoCloud」と「GeoConic」を使えるようになりました。
PLATEAUの2022年度プロジェクトも先日発表されました。今年度は「データ整備の効率化・高度化」「先進的なユースケース開発」「データ・カバレッジの拡大」の3つのテーマのもとに50件以上のプロジェクトを採択しています。
さらに自治体のデータを保管管理する「デジタルシティサービス」のサービス利用料も先日引き下げられました。片岡さんは「自治体の方でも3D都市モデルを公開する動きが多くなるんじゃないかなと思います」と期待を示しました。
おわりに
最後に片岡氏は「相変わらずコロナ禍が続いていますが、街歩きが楽しくなるようなサービスが登場したり、コロナ禍での人流解析やビッグデータ解析が役に立ったりと色々と盛り沢山でした」とコメント。
6月16日には片岡氏が執筆した「いちばんやさしい衛星データビジネスの教本 人気講師が教えるデータを駆使した宇宙ビジネス最前線」という本が発売されるとのことで、「衛星データの活用事例や衛星データビジネスの立ち上げ方、ツールの作り方等とても面白いので衛星データに関心がある方はよろしくお願いします」と締めくくりました。
URL
ジオ展2022
https://www.geoten.org/2022
GeoNews – 地図と位置情報のニュースを中心とした情報サイト
https://geo-news.jp/