国土交通省の内山氏が語るPLATEAUの現状と未来
地図位置情報関連の企業やサービスが一堂に会する展示会「ジオ展2022」から、国土交通省都市局都市政策課課長補佐である内山裕弥氏が登壇した基調講演の模様をレポートします。
まちづくりのDXを推進する「PLATEAU」
プロジェクトPLATEAUは、2020年度の発足から3年目になる、国土交通省が進める3D都市モデル整備・活用・オープンデータ化のプロジェクトで、まちづくりのデジタルトランスフォーメーション推進事業の名称です。
プロジェクトのミッションは「”まちづくり”のデジタルトランスフォーメーションによるSociety 5.0 / デジタルツインの実現」。現実の都市空間をそっくりそのまま現実世界にフィードバックをすることで変革を進めていき、人々の生活をより良くしていこうというプロジェクトです。
PLATEAUには3つのプロジェクトスコープが設定されています。
1つ目は3D都市モデルの整備・オープンデータ化です。2つ目はユースケースの作成で、PLATEAUのデータがどういった分野で活用されるかの模索、さらには民間企業や大学に提供することで新たな活用方法や付加価値のを索を含んでいます。3つ目は整備活用のムーブメントです。
PLATEAUは始まったばかりであるため国土交通省でリードしていますが、今後データ整備は各自治体へ移行していきたいとのこと。また、現在行っているPLATEAUのユースケース開発も、今後は民間企業にバトンタッチしていきたいとのことでした。
持続可能で人間中心、そしてアジャイルなまちづくりを目指す
またまちづくりのDXを実現した後の世界として、3つのポイントも挙げられました。
1点目は持続可能な街づくりです。内山氏は、SDGsなどを含むサステナブルな街づくりを行う際に現在経験則に頼っている部分のある都市開発やゾーニングを、10年・20年後を見据えてよりデータドリブンによって進めていきたいと語りました。
2点目は人間中心のまちづくりです。シビックテック、ヒューマンセントリックとも呼ばれるこのポイントでは、ビジュアライズの機能を使うことで都市課題などをわかりやすく行うことができます。これによって普通の人が政策・課題について理解しやすくなることで、市民がまちづくりの運動に参加しやすくすることを狙っています。
3点目は機動的で機敏な、つまりアジャイル的なまちづくりです。まちづくりは短くても10年のスパンで考えるものとされてきましたが、一方でコロナを含む生活行動様式の変化、多様化が進む中で、長期スパンでの計画が必ずしも問題解決に則したものかという課題が生まれています。内山氏は、現状に対して3Dやデータを活用することで、アジャイルに対応していけることを期待していると語りました。
建物情報の詳細も含む都市データ。現在は56都市分のデータを公開
現在PLATEAUでは56都市分のデータが公開されており、建物道路を含むデータが都市全体を再現しています。さらに災害リスク情報などのデータを都市全体に重ね合わせることで、今までできなかった形で分析できるようになっています。
実際に用いられるデータは各自治体が作成した「都市計画基本図」や図形情報 (都市計画GIS) 、航空測量成果のライブラリで作成されています。「大規模にリッチなデータを作っていますが、元データは自治体から借りてきているので意外にリーズナブルで、かつどこの自治体でも作れる仕様になっています」(内山氏)。
Googleマップとは何が違うのでしょうか? 内山氏によれば、人間の目から見ると同じに建築に見えるものの、そのソリッドがそもそもビルなのか、サーフェスが天井なのか面なのかなどといった情報や、工場なのか駅なのかなどといった建物情報が紐づく形で作成されています。現状こういった形で情報提供しているオープンプラットフォームの情報はPLATEAUだけ、と内山氏は語りました。
現在は測量手法の標準化にも取り組んでいます。これは国が率先してデジタル化をしている要因の1つでもあり、独自データとして災害ハザード情報のほか、東京湾の平均海面情報などLOD(Level of Detail、詳細さの度合い)も作成もしています。
3月末には標準仕様のPLATEAUを作るための仕様書や測量マニュアルがリリースされました。他者がデータを作った場合でも、様々な人がデータを扱えるような環境の整備が進められています。
また、地上測量を使った詳細度の「LOD3」を作るために、車を走らせて取得した精緻なデータと航空測量データを組み合わせてデータを作成できるようにする動きも進んでいます。
国際標準規格の設定やフォーマットの統一で効率的なデータ連携を目指す
データの連携などを行うにあたっては、フォーマットが統一されておらず、プロジェクトごとに固有なフォーマットが用いられることは珍しくありません。PLATEAUは国際標準規格を設定することで、データ連携をスムーズにすることを目指しています。
また、災害情報、都市計画GISなどといったの目に見えないデータも統一することで、様々なデータベースやAPI、ゲームエンジンなどに対してのデータ流し込み等も効率的にすることで新たなサービスが生まれることを目指します。
では他の空間記述データとPLATEAUは何が違うのでしょうか。点群データは精緻ですが、データの内容はRGBと緯度経度程度を保持しているだけで、データそのものがなんなのか、ということは保持できません。SLAMレベルのデータであれば十分ですが、データそのものががなんなのか知りたいときは適していない、と内山氏は指摘します。
一方、PLATEAUでは都市全体で異なるスケールのデータを扱うことができます。PLATEAUはG空間情報センターでオープンデータとして公開していますが、データをより取り扱いやすくするために、FCDBの形でもデータ提供が始まっています。
今年度は100を超える自治体で整備見込み。日本全国のPLATEAU化を目指す
3D都市モデルは今後は道路などと同じ公共が提供するインフラと同様の形で整備され、地方自治体の提供するデータのうちの1つとなる予定です。
位置情報を活用した解析、AR / VR空間を作成する際のベースデータとして活用される他、アプリ開発の土台になることもあります。具体的なところでは、
- 人流データを活用した空間設計 / スマート・プランニング
- バーチャル空間における新たな都市設計
- エリアマネジメントのアジャイル化
- 物流ドローンのフライトシミュレーション
- 災害シミュレーションによるリスク分析
- AR / XR領域におけるコンテンツ活用
- 自動運転システム
- 太陽光発電のポテンシャル設計
- 地方自治体におけるカーボンニュートラルを進めるようなデータの提供
- エリアマネジメント支援ツール
- 工事車両の交通シミュレーション
などが挙げられます。
また、PLATEAUドキュメントシリーズの整備も進められており、これまでガイドブックシリーズは10本、テクニカルレポートは4本発行されています。ガイドブックははPLATEAUの概要について、テクニカルレポートは実証実験をベースにどのようにしたら再現可能かなどといった点にも触れています。関連するコードはGithubでも公開することで技術者向けに活用しやすい環境の整備を整えており、ハッカソンなどのイベントも実施しています。
直近ではグッドデザイン賞のベスト5に選ばれ、徐々に認知度が高まっているというPLATEAU。自治体でもPLATEAUを使用した取り組みが活性化しており、最近では札幌市がPLATEAUのデータをコンバートしてマインクラフトのデータを作ることで、子どもたちに使ってもらうといった取り組みも行われています。
今後はデータ整備の効率化・高度化、ユースケースの開発とスマートシティの社会実装、そしてデータ・カバレッジの拡大が進められる予定です。今年度は100を超える自治体で整備見込みで、日本全国のPLATEAU化を目指される、とのことで講演が締めくくられました。
URL
ジオ展 (じおてん, Geo-ten) – 2022
https://www.geoten.org/2022
PLATEAU [プラトー]
https://www.mlit.go.jp/plateau/