位置情報で現場情報を可視化する「iField」で屋内外の現場での価値を最大化

マルティスープ株式会社 代表取締役 那須俊宗氏インタビュー

位置情報を活用した現場情報の集約・分析ツール「iField」シリーズを提供するマルティスープ株式会社。2000年に創業した同社は、GPS携帯電話の黎明期より位置情報を活用したサービスやソリューションをいち早く開発・提供し、様々な分野において位置情報による課題解決に取り組んできました。同社の独自サービスであるiFieldは、屋内外を問わずあらゆる業種において人・車両・モノの位置情報を可視化し、作業報告のスマート化や業務改善に役立てることができます。

同社の代表取締役を務める那須俊宗氏に、マルティスープのこれまでの歩みと今後の展望、位置情報を活用したビジネスの可能性などについて話をお聞きしました。

マルティスープ株式会社 代表取締役 那須俊宗氏

フィーチャーフォンの時代から位置情報を活用したサービスを提供

――創業してから位置情報を活用したビジネスを立ち上げるまでの経緯をお聞かせください。

那須氏:当社は2000年4月に創業しました。もともと私はCADの開発会社にいたこともあり、当初はCADの受託開発を行っていたのですが、顧客企業からGIS(地理情報システム)の開発を依頼されたことがきっかけで、地理空間情報に関連したビジネスに参入しました。

最初は都道府県の管路解析のシステムなどを開発していたのですが、2002年頃にGPS携帯電話が発売されたのをきっかけに動態管理サービスに興味を持ち、NTTドコモのDLP(ドコモロケーションプラットフォーム)に対応したGPS位置情報管理システム「Mapism(マップイズム)」を開発しました。これは1分間ごとに携帯電話の位置情報を可視化するもので、警察や中堅の警備会社などで利用されました。

その後はGPS携帯電話を活用した画像位置情報管理システム「Mshot Location(エムショット・ロケーション)」、物件・施設位置情報管理システム「Mpoint Manager(エムポイント・マネージャ)」をリリースしました。

マルティスープの沿革(画像提供:マルティスープ)

――2000年代の前半からiFieldの原型となる位置情報管理システムをすでに提供していたのですね。

那須氏:位置情報の取得デバイスにはフィーチャーフォンを使用していますが、Mapismは動態管理、Mshot Locationは報告管理、Mpoint Managerは物件管理を主な目的としています。その後、2010年にAndroidスマートフォンが市場に出揃ったタイミングでこの3サービスを統合し、フィールド業務支援ソリューション「iField」としてリリースしました。この頃のiFieldはまだコンセプトモデルのようなものだったのですが、東日本大震災のときに被災地の被害状況を確認する用途などに活用されました。

iFieldはその後2014年に大きく進化し、動態管理・報告管理・物件管理に加えてステータス報告機能なども追加した上で、サーバーを1ユーザーで占有するシングルテナント型のサービスとして提供開始しました。クラウドとオンプレミスの両方に対応可能で、ユーザーごとにカスタマイズにも対応できる点が特徴となっています。

PDRや地磁気測位など新しい測位技術にいち早くチャレンジ

――屋内測位に対応したのはいつ頃からでしょうか?

那須氏:屋内測位にはiFieldの登場以前から注目していて、 2009年頃から産総研さんによるPDR(歩行者自律航法)の研究などに協力していたのですが、PDRだけでは技術的に商用ビジネスにするのが難しい状況が続いていました。そんなときに、2014年にApple社がWWDCでiBeaconを発表したのを知り、Bluetoothのビーコンとスマートフォンの組み合わせであればビジネスができると考えて、ビーコンによる屋内測位技術を活用した「iField Indoor」をリリースしました。iField Indoorはリリースして間もなく半導体工場に導入され、約4万平方メートルに3000個のビーコンを工場内に配置されました。

――早くから屋内測位の最新技術に注目していたことで、ビーコンを活用したサービスをいち早く実現できたのですね。

那須氏:常に新しいことに挑戦することが当社のアイデンティティとして社内にも行き渡っているのですが、その分、失敗も多いです(笑)。ただし、それは成功につながる失敗です。たとえばPDRという技術は、ジャイロセンサーや加速度センサーで方向や移動距離を推定する技術ですが、それ単独では用途が限定されてしまいます。そこで、RFID(無線タグ)を使って位置を補正するなど、複数の技術を組み合わせて測位するのが理想的であると学びました。

最近は屋内の地磁気データを計測して位置を推定する「地磁気測位」という技術が普及しつつありますが、地磁気測位の場合は突然変な場所に飛んでしまうことがあるため、PDRによって移動距離や方向を推定することで、そのような誤差の発生を防ぐことができます。屋内測位の技術には様々な方式があり、それぞれの良さがあるので、用途によって使い分けたり、組み合わせたりすることが重要です。

iFieldの測位システム構成図(画像提供:マルティスープ)

――屋内測位技術で現在注目しているものは何ですか?

那須氏:当社はこれまで電波を活用した技術を使うことが多かったのですが、光学カメラを使ったビジュアルポジショニングシステム(VPS)には注目しています。光学カメラは相対識別が難しく、工場など狭い空間で動きを追うのには適していますが、広いエリアの中で誰がどこにいるのかを認識し続けるという用途には弱いので、今後どのように進化するのか期待したいですね。ほかにもBluetooth 5.1の方向検知機能を活用したBluetooth AoA測位や、iPhoneにも搭載されたUWB(超広帯域無線通信)にも注目しています。

――屋外測位技術についてはいかがですか?

那須氏:屋外についても、携帯電話会社によるRTK(リアルタイムキネマティック)測位サービスやみちびき(準天頂衛星システム)の高精度測位など、様々な高精度測位サービスが登場しており、よ今後り精度が向上すれば、できることはまだ多いと思います。例えば工事の作業員の安全を守るための測位となると、スマートフォンに搭載されているGPSでは十分に安全性を担保できません。最近は屋外の高精度測位のデバイスも小さくなりましたし、可能性は膨らんでいると思いますが、実証実験などで試してみると、まだこなれていない部分があるし、コストも高いので、費用対効果を考えながら導入を検討していきたいですね。

位置情報を活用したビジネスの魅力と提供する上での難しさ

――現在、iFieldにおいて屋外と屋内のどちらのニーズが多いですか?

那須氏:屋外測位はGPSなど成熟した技術を使えるため、本番フェーズとして数多くのデバイスが導入されることが多く、その分だけ売上は大きいですね。土木・建設をはじめインフラの維持管理や警備システム、災害時の被災状況調査など様々な分野で導入実績があります。一方、屋内については新しい技術ということもあり、現場DXの素材としてこちらも引き合いはとても多いです。屋内についても、工場内における作業状況の把握や構内物流の可視化、作業様々計測機器など様々な機器の位置所在管理、現場安全管理、現場状況の報告管理など多種多様な用途で活用されています。

iFieldの導入実績(画像提供:マルティスープ)

――位置情報を活用したビジネスについて、どのような点に魅力を感じますか?

那須氏:空間情報というのはMEMS(微小電気機械システム)から物流の配送ルート、ロケットの軌道に至るまで、規模の大小に関わらず“座標系の分析技術”という意味ではほぼ同じ技術を使って実現できるし、だからこそ私たちのビジネスは、けっして無くならないと思えるくらい大きな可能性があります。しかも、テキストやカメラではAIがどんどん進化しているのに対して、座標系のAI技術はまだまだこれからです。位置情報は他の情報と絡めてこそ価値が出るため、これからのAI技術には必ず取り込まれていきます。私は創業当時から今に至るまで、位置情報の技術と可能性にはずっとワクワクさせられています。

――位置情報を活用したビジネスを展開する上で、どのようなところに難しさを感じますか?

那須氏:「人の生活を制約するものが何か」ということについて考えたときに、最も大きなものは“時間”と“場所”ですが、時間を示す時計は電波時計などの普及でとても正確になったのに対して、場所を示す位置情報はまだ技術が途上であり、誤差が大きいです。もちろん用途によっては必ずしも高精度が必要なわけではありませんが、まだ課題は色々とあります。私は以前から「位置情報・空間情報はインフラになる」と言い続けてきたのですが、インフラになるということは「誰もそれを意識しないけど、けっして欠かせないもの」になるということなので、インフラと呼べるようになるまでにはチャレンジが必要だと思うし、だからこそこの分野には面白さを感じます。

――位置情報を活用したサービスとしてiFieldは先駆的なサービスと言えますが、近年では競合サービスも増えてきました。他社サービスとはどのように差別化を図っているか戦略を教えてください。

那須氏:位置情報を扱っているサービスという意味では、例えば「屋内でこれだけの精度で測位できます」とか「工場内で人の動きがこれだけの精度でわかります」というようなところで勝負する段階では無くなってきていると考えており、当社では「iFieldで顧客のどのような課題を解決するのか」という点にフォーカスしています。位置情報がわかるだけでなく、位置情報をもとに自動的に作業指示を出すとか、日報を書かずに済ませるとか、ユーザーのビジネスの効率化と省力化を実現し、それによって現場で働く方をサポートすることを目指したツールである点がiFieldの強みだと思います。
 
 位置情報があるからこそできる現場の「自動化」により、深刻な人手不足人不足になっている現場を支援するサービスを目指しています。

屋内外で働く人たちの価値を最大化することが使命

――コロナ禍の前後で、位置情報を活用したビジネスに何らかの変化は見られますか?

那須氏:位置情報ビジネスの業界全体で見ると、位置情報を活用したマーケティングソリューションについては、混雑情報などがメディアで数多く紹介されたことにより、一般の人にとって位置情報ビッグデータの利用イメージが湧き、利活用が進んできていると思います。一方、我々のビジネスに近いところでは、コロナ禍をきっかけにオフィスのフリーアドレス化がものすごく進んでしまったため、オフィス系の屋内位置情報サービスはマーケットをかなり広げました。総じてコロナ禍の前に比べて、位置情報を活用したビジネスは大きく広がったと思います。

――今年に入って生成AIが社会的に大きく注目されましたが、位置情報の分野におけるAI活用についてはどのように考えていますか?

那須氏:位置情報の分野については、まだAIの成功事例は多くは見当たりません。位置情報はテキストや数値、画像などの分析に比べると複雑であり、他の情報と組み合わせないと分析しづらいので、AIとしての進化はまだまだこれからだと思います。iFieldは2023年2月にMODE社が提供するIoTプラットフォームと連携し、様々なIoTデータの収集・活用ができるMODEの情報をかけ合わせて利用することが可能となりました。MODEのIoTプラットフォームでは、生成AIとIoTを組み合わせて作業現場の情報をリアルタイムで報告するチャットサービスも提供しており、そのようなサービスを提供する上でも位置情報はとても重要になると思います。

AIの活用については、位置情報だけで考えるのではなく、例えば工場であれば設備の情報など、他の情報と組み合わせた上でAI化していくことが大切で、それによって例えば工場内の特定箇所に課題があることを発見してサジェストするなどの新たな機能が実現できると思います。今後、工場では自動化がより進み、作業人員は次第に減っていくと思われるので、その中で人間が判断しなければいけない作業を位置情報を含むサジェストがサポートし、機械では行うのが難しい部分だけを人間が判断していく、そのような世界になると思います。

――貴社の今後の展望についてお聞かせください。

那須氏:当社のミッションは、「位置・空間情報技術により、その場の価値を最大化すること」です。位置情報を活用することで、3人でやっていたことを1人でできるようにしたり、1時間かかっていた作業を10分間に縮めたりと、業務効率化を図り、屋内外で働く人たちに対して、その価値を最大化するための支援を行うことが我々の使命だと考えています。

まずは現在のターゲットマーケットとなる、インフラ、製造、物流の現場の価値を最大化するため、「iField」をさらに”なくてはならないツール”として進化させていただくことに注力します。
”現場”の価値を最大化する延長線上には、医療や地域などに貢献できる位置情報プラットフォームを目指すこともできるのではないかと考えています。
都市のデジタルツインにおいて位置・空間情報はキーとなるインフラであり、リアルタイムの位置情報は大きく貢献すると思うので、このような分野にも注目していきます。

URL

マルティスープ株式会社
https://www.multisoup.co.jp/

iField(アイ・フィールド) | 産業向けの位置情報活用プラットフォーム
https://ifieldcloud.jp/