スマートデバイスで取得した「デバイスロケーションデータ」のガイドラインを策定。位置情報マーケティングビジネスを推進

LBMA Japan代表理事/株式会社リバーアイル代表取締役社長 川島邦之氏インタビュー

位置情報データを活用したマーケティング・サービスの推進を目的として、2019年に設立された一般社団法人LBMA Japan(Location Based Marketing Association Japan)。同団体は、国際団体であるLBMA(Location Based Marketing Association)の支部として、スマートフォンやタブレットから利用者の許諾を得た上で取得される位置情報データ(デバイスロケーションデータ)の運用や利活用に関する共通ガイドラインを作成するとともに、カンファレンス・イベントの開催や会員間交流施策、研究活動なども行っています。

このLBMA Japanの代表理事を務める川島邦之氏に、同団体の設立経緯と活動目的、位置情報データを活用したサービスの動向などについて話をお聞きしました。

LBMA Japan代表理事の川島邦之氏
LBMA Japan代表理事の川島邦之氏

位置情報データを活用したビジネスを展開する15社によって設立

――国際団体としてのLBMAはいつ頃設立されたのでしょうか?

川島 LBMAが設立されたのは2010年です。スマートフォンがまだ普及していない頃で、そのような携帯端末が進化することによって位置情報の活用が進むことが予想されるということで、「位置情報データをどのようにマーケティングに活用していくか」を考えるところからスタートしました。現在は欧米など世界各国の26カ所に支部があります。各支部では年間に数回イベントを開催するという約束があり、毎年1回は支部ごとに大きなイベントを開催しています。

LBMA Japanのロゴマーク
LBMA Japanのロゴマーク

――日本におけるLBMA Japanの設立経緯を教えてください。

川島 2018年秋頃に、日本国内において位置情報データを活用したビジネスを展開する企業の間で事業者団体の必要性が高まったのが最初のきっかけです。その頃はちょうどiOSやAndroidのバージョンアップにともなって、アプリからの位置情報取得の設定や許諾取得のやり方が大幅に変更されたため、位置情報ビジネスを展開する各社が個別に許諾の取り方を検討していた時期で、「各社が個別に考えるよりも、みんなで一緒に考えた方が良い」という話になりました。

 その後、カナダのLBMA本部が主催するイベントに私が参加し、日本でも同じような活動ができるのではないかということで、2018年末にかけて日本の支部を作るという流れになりました。日本では個人情報保護法を改正する動きがあり、位置情報データを活用したサービスを提供する企業がそれをどこまで意識すべきかという議論もありましたし、将来的に政府に働きかける必要も生じるかもしれないということで、そのためにもひとつにまとまったほうが良いという判断もありました。

――その後、2019年に設立に至ったわけですね。

川島 LBMAの日本支部として正式に設立したのは2019年10月で、そのときは15社が集まりました。この15社で位置情報データに関する共通ガイドラインを作成するための委員会を設立し、ガイドライン作りを進めていきました。当初は各社で色々な意見があり、それを取りまとめるのは大変でしたが、2020年6月に最初のガイドラインを発表することができました。

 最初に集まった15社は、位置情報データや、それを扱うためのテクノロジーに特化した企業だったので、「きちんとしたガイドラインを作らないと、業界として今後成り立っていかない」という切迫感があったため、協力して1つのガイドラインを作ることに向き合えたのだと思います。

デバイスロケーションデータと個人情報との違いを明確化

――共通ガイドラインについて、簡単に内容を教えていただけますでしょうか。

川島 それまでは位置情報データとは一体何なのかということがきちんと定義されておらず、どの法令によって適用されるのかが曖昧だったので、まずはスマートフォンなどによってユーザーの同意を得て取得された匿名の位置情報データを「デバイスロケーションデータ」という言葉で定義しました。

 その上で「デバイスロケーションデータはこのように運用しましょう」というガイドラインを作ったわけですが、そこで最も大事なのは、デバイスロケーションデータを個人情報とは紐付けないことです。「個人情報に紐付けた時点で、それは個人情報として扱うように」としており、そのような提供の仕方は禁止するということを明確にしています。

 ガイドラインではさらに、デバイスロケーションデータを取得する際には、ユーザーからパーミッション(合意)を得ること、その際は使用目的と使い方を明記して理解していただくことを規定しています。

――「デバイスロケーションデータそのものは、個人情報と紐付けない限りは個人情報ではない」ということを明らかにしたわけですね。

川島 位置情報データを活用したマーケティングサービスの事業者がデバイスロケーションデータを活用する目的は、「全体的に人がどのように動いたか」を把握することであり、ユーザー1人1人の個人情報が欲しいわけではありません。LBMA Japanとしては、「もし個人情報を扱うのであれば、個人情報保護法に基づいた運用をしてください」というスタンスです。

 だからこそ、たとえばデバイスロケーションデータを活用して混雑状況の分析結果が発表されることに対して、「個人情報が取られているのではないか」と気持ち悪さを感じている人に対しては、デバイスロケーションデータが個人情報ではないことをきちんと説明し、理解していただいた上で位置情報の取得を許可していただく必要があります。

 もちろんすべての人に理解していただくのは難しいことは十分よくわかっていますし、そのためにも私たちは同じことを言い続けていかなければいけないと思っています。その一環として、LBMA Japanでは「スマートデバイス利用者のプライバシーに配慮する取り組み」と題したイラスト入りの案内も一般公開しています。

――共通ガイドラインのアップデート状況を教えてください。

川島 最初の公開から2年が過ぎましたが、その間で最も大きなアップデートは、2022年4月1日に個人情報保護法が改正されたことに合わせて改訂を行ったときです。改正個人情報保護法の中では、「生存する個人に関する情報であって、個人情報、仮名加工情報及び匿名加工情報のいずれにも該当しないもの」を意味する“個人関連情報”という概念が定義され、位置情報データはこの個人関連情報に該当するものであることが明確化されました。

 また、「特定の個人を識別できる場合は、位置情報も個人情報になり得る」ということも初めて定義されました。我々のガイドラインではもともと「個人を特定できる場合は個人情報として取り扱う」と規定していたので、そこが法律で明確になったことが大きなポイントだと思います。

 個人を識別できる場合の例としてよく言われるのが、「山の中にポツンと一軒家があって、300メートルメッシュの中に家が一軒しか無かったら、個人として特定できてしまう」というケースですね。このケース以外でも、たとえば同じ地点で連続して位置情報データを取り続けることで行動パターンから類推できてしまうといったケースもあるので注意が必要です。

デバイスロケーションデータと個人情報との違い

デバイスロケーションデータと個人情報との違い

他組織との連携やメンバー間の交流を推進

――ガイドラインの策定に際して、ほかの組織や団体と協議などは行っているのでしょうか?

川島 ガイドラインを発表するにあたっては、個人情報保護委員会や総務省とも協議して内容を確認していただき、たとえば少し不明瞭であると指摘された部分の表現を変えるなど、得られたフィードバックを反映するようにしています。また、総務省主催のワーキンググループに事業者代表として登壇させていただいて、当団体の取り組みを発表したこともあります。

 今年の10月のCEATECでも個人情報保護委員会と一緒に登壇させていただく予定で、できるだけさまざまな組織や団体と交流しながら意識のすり合わせを行い、公の場でも対談を行う機会も多く設けるようにしています。

デジタル(位置情報)データとプライバシー/ビジネス倫理シームレスなデジタル社会の実現に向けて CONFERENCE | CEATEC 2022 Toward Society 5.0 公式サイト
https://www.ceatec.com/ja/conference/detail.html?id=1988

――事業者としては、LBMA Japanに加盟するとどのようなメリットがあるのでしょうか?

川島 私たちは“共創”をテーマとして活動しています。具体的には月例でオンラインの情報共有会議を行ったり、エンジニアやデータサイエンティスト向けの交流会などを行ったりしています。あとはメンバー同士のコミュニケーションを取れるオンラインやリアルでの会議なども行っています。

 最近は色々な業界の方々から位置情報の活用事例を発表いただく機会が増えていて、メンバー限定のセミナーも行っています。また、当団体はさまざまなイベントを共催する機会も多く、このようなイベントの参加費用も安くなります。

――事業者の加盟状況についてはいかがでしょうか?

川島 当初の目的だった50社には昨年到達し、2022年9月現在で52社になっています。ようやくここまで来られたと感慨深いですが、引き続き多くの事業者に参加していただけるような枠組みを作っていきたいと思います。もともとLBMA Japanはデバイスロケーションデータを専業で扱う事業者が集まって作った組織ではあるのですが、今ではデバイスロケーションデータを活用して既存の事業に役立てているという会員事業者が増えているのが最近の傾向だと思います。

位置情報データの扱いに関する認定制度を提供予定

――位置情報データに対する社会からの関心は高まっていると思いますか?

川島 私どもが開催するイベントを見ても、回を重ねるごとに参加者が増えており、デバイスロケーションデータへの注目は高まっていると感じています。コロナ禍において混雑情報が発表されたことがきっかけで、まずはデバイスロケーションデータの存在を一般の方に広く認識していただき、しかも、それは個人情報とは切り離された状態で活用されていることがニュースで繰り返し紹介されたというのはとても大きかったです。

 ただ、混雑情報だけではビジネスにはなりにくいので、「実際にビジネスとしてはどのような使い方があるのか」ということについて、われわれとしてはもっと多くの人の認知を高めていきたいと思います。たとえば10月に参加予定のイベント「CEATEC」では、政府が推進する“都市のデジタル化”というテーマに対して「位置情報データを活用してこんなことができますよ」という事例を提示したいと考えています。

――今後、位置情報データを活用したビジネスは拡がっていくと予想しますか?

川島 当団体の会員事業者でもある株式会社unerryが、今年7月に東京証券取引所グロース市場に上場を果たしました。東京証券取引所系列で位置情報データをメインで扱っている企業が株式上場するのは初めてのことであり、厳しい監査をクリアしたということで、位置情報データを扱う事業者がコンプライアンスを徹底していることを示すことができたとも言えます。

 他にも位置情報データを扱う事業者は近年、続々と大型の資金調達を果たしていますし、昔から続いている大企業でも位置情報データを扱うようになり、当団体に参加してきています。このように、当団体がスタートした2年前には見られなかった動きが最近になって活発になってきており、これは位置情報マーケティングビジネスが健全なものであることが理解され、この業界の規模が拡がってきていることのひとつの表れだと思います。

――LBMA Japanとしての今後の抱負をお聞かせください。

川島 当団体では、共通ガイドラインに沿って会員企業がしっかりと運用しているかどうかを監査する認定制度を、今秋にかけて企業向けと個人向けの両方に提供しようと考えています。企業向けの認定制度をクリアすることで、デバイスロケーションデータについてしっかりとした運用を行っていることをエンドユーザーや取引先企業へアピールすることができます。一方、個人向けの認定制度を設けることにより、多くの方にデバイスロケーションデータに関する知識を身につけていただきたいと考えています。

 共通ガイドラインについては、法律・法令も変わっていくので、今後も随時アップデートしていきたいと思います。また、各種イベントへの参加や支援の機会も続けていく方針です。

 さらに、今や位置情報の活用はさまざまな分野に拡がっているので、それぞれのステークホルダーが抱えるテーマに対してデバイスロケーションデータをどのように活用できるかということを具体化していく取り組みを進めていきたいと考えています。たとえばカーボンニュートラルを実現していくために、デバイスロケーションデータをもとにカーボンクレジットにするとか、そのような具体的な事例を体系化していくことで、会員事業者によるビジネス化につなげられると思います。

 さらに、当団体では「位置情報マーケティング・サービス カオスマップ」を毎年発表しており、昨年11月にも発表したのですが、デバイスロケーションデータがどのようなビジネスに活用されているかを広く伝えるのに役立っています。新しい取り組みをしている企業があることを可視化することで、業界全体として日本の位置情報データ活用ビジネスを盛り上げていけるのではないかと思いますので、これからもどんどん新しいことにチャレンジしていきたいですね。

位置情報マーケティング・サービス カオスマップ
位置情報マーケティング・サービス カオスマップ

URL

Location Based Marketing Association Japan
https://www.lbmajapan.com/

LBMA Japan サービスガイドライン | LBMA Japan
https://www.lbmajapan.com/guideline