【ジオ用語解説】人流データ

位置情報に基づいて人の動きを表すデータ

人流データとは、人がいつどの場所に何人いたか、どこからどこへ移動したのかを表したデータを意味します。これらのデータは、スマートフォン内蔵のGPSや携帯電話の基地局情報などから得られる、人やモノの位置を緯度・経度で表す位置情報を集積した“位置情報ビッグデータ”をもとにしています。

新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた頃に、テレビなどで有名スポットを訪れる人の数が増えたり減ったりしたというニュースが連日のように報告されていましたが、このような混雑情報も人流データの分析によって得られるものです。

スマートフォンから取得できる人流データ

スマートフォンなどから位置情報を取得する方法としては、以下のような方法があります。

携帯キャリアの基地局

携帯電話の基地局周辺にある端末数を算出し、それをもとに各エリアの人口を推計することにより人流データとして活用します。基地局情報はスマートフォンのGPSがオフでも端末の電源が入ってさえいればデータを取得することが可能で、スマートフォンだけでなく従来型携帯電話の端末数も割り出すことができます。ただし位置精度はGPSに比べると劣ります。

スマートフォンのGPS

スマートフォンに搭載されているGPSが取得する位置情報は、地図アプリやナビアプリ、SNSアプリ、ライフログアプリ、カレンダーアプリなどさまざまなアプリで活用されており、これらのアプリからユーザーの同意を得た上で収集した膨大な数の位置情報が人流データとして使用されます。

Wi-Fiスポット

フリーまたは有料のWi-Fiスポットに接続した端末数をもとに人流データとして活用します。Wi-Fiサービスの利用開始時に登録した性別や年代などの情報を属性情報として活用したり、利用者を外国人に限定することで訪日外国人に限った接続情報を得たりすることも可能です。なお、特定施設内において、Wi-Fiの電波を使用して周辺に存在するスマートフォンの数をカウントするプローブ計測という手法もあります。

ビーコン

Bluetoothによりスマートフォンと連携できるビーコンを施設内に配置することで、アプリでビーコンを認識し、位置情報として収集することにより人流データとして活用できます。

ほかにも交通系ICカードやETCカードを使って乗り物での移動を把握し、人流データとして活用する取り組みも見られます。また、特定施設内での人流を把握するために、レーザー・レーダーや光学カメラを使って人の移動を検知する方法もありますが、計測機器を設置する必要があるため、広域において大量の人の移動を分析するのには向きません。

なお、一般的にスマートフォンなどから得られる人流データは、まとまった数の人がいつどこに滞在し、どこへ移動したかを分析するために使われるものであり、氏名の匿名化や秘匿化などの処理を行うなど、プライバシー保護には十分に配慮されています。

街中の混雑状況がわかる「Yahoo! MAP」アプリの「混雑レーダー」 (4月27日付プレスリリースより))
街中の混雑状況がわかる「Yahoo! MAP」アプリの「混雑レーダー」 (4月27日付プレスリリースより))

人流データの活用事例

人流データの活用事例としては、以下のようなものがあります。

マーケティング

ユーザーの位置情報から行動傾向や趣味嗜好を把握し、それに基づいて広告配信やクーポン配布を行えます。また、キャンペーンや販促イベントの効果を検証したり、新規出店エリアを検討したりすることも可能です。

防災

人流データをもとに歩行者などの通行実績を分析し、浸水想定区域や避難場所などの位置情報を組み合わせることで最適な避難ルートを検討するなど、さまざまな災害対策のシミュレーションを行えます。

都市計画

繁華街などにおける滞留人口を調べることで人々の行動変容を把握し、公共施設や道路の建設など都市計画に役立てることができます。

観光

観光地の来訪者の行動を年代や性別、居住地などの属性をもとに分析することで、効果的な誘客施策の立案が可能となります。

公共交通

人流データを気象情報などと組み合わせることでタクシードライバーが需要を予測したり、イベント時の人流の変化を予測して鉄道やバスを増便したりすることができます。また、人流動向を把握することでバスルートの選定や新たなバス停の設置などに役立てることもできます。

金融

店舗や施設、工場などの人流データを分析することにより、需要動向や稼働状況を把握し、投資判断などに役立てることができます。

混雑情報の提供

店内や施設内の混雑情報をリアルタイムに把握して来訪客に共有することで、来訪客は混雑を避けることができます。

人流データの多くは有料ですが、国土交通省が「G空間情報センター」で公開している「全国の人流オープンデータ」など、オープンデータとして無料で提供されているものもあります。このデータはAgoop社のSDKを使ったアプリで収集される位置情報データをもとにしたもので、2019~2021年を対象に全国の「1kmメッシュ別の滞在人口データ」と「市区町村単位発地別の滞在人口データ」を公開しています。

また、NTTドコモが無料で公開している「モバイル空間統計 人口マップ(モバ空マップ)」や、内閣官房および経済産業省が提供する地域経済分析システム「RESAS(Regional Economy Society Analyzing System)」のように、人流データを地図上に可視化できるサービスもあります。

RESAS

RESAS

一昔前では、人流データを扱う場合はGISソフトウェアなどを使って地図上に可視化し、分析する必要がありましたが、最近ではウェブ上で手軽に可視化・分析できるサービスが増えており、その活用もさまざまな分野に広がりつつあります。

URL

Yahoo! MAP、「混雑レーダー」提供再開から1年に – ニュース – ヤフー株式会社
https://about.yahoo.co.jp/pr/release/2021/04/27c/

トップページ – RESAS 地域経済分析システム
https://resas.go.jp/#/13/13101