OSMの可能性に魅力を感じてマッピングの輪を拡大。アクティブメンバー増を目指しコミュニティを支援

OpenStreetMap Foundation Japan代表理事 三浦広志氏インタビュー

フリーでオープンな地図データを草の根の力で作る世界的プロジェクト「OpenStreetMap(オープンストリートマップ)」の日本地域におけるコミュニティ活動の支援に取り組んでいる一般社団法人オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン(OSMFJ)。同組織はOSMの発展のため、関連団体との連携やカンファレンスの開催、OSMに関わる知的財産の保護・維持管理なども行っています。

このOSMFJの代表理事を務める三浦広志氏に、同組織のこれまでの取り組みと今後の展望について話をお聞きしました。

日本初のマッピングパーティを鎌倉で開催

――三浦さんがOSMと出会ったきっかけを教えてください。

三浦 私はオープンソースソフトウェアの黎明期の頃からLINUXのオープンソースコミュニティに参加し、多くの人と共同で開発に取り組みながら、オープンソースソフトウェア(OSS)の普及啓発に努めていました。そのLINUXのコミュニティで出会った友人からの情報で、OSMの存在を耳にしたのが2007年頃です。その頃のOSMは、日本地域にはデータがほとんど存在せず、地図が真っ白だった時期ですが、試しにGPS搭載のスマホで取得した軌跡ログを使って地図を編集してみたらとても面白くて、「これは可能性がある、日本でももっと広げたほうがいい」と感じました。

――OSMのどのような点に魅力を感じたのでしょうか?

三浦 たとえば鉄道や車に乗りながらGPSでログを取得し、そのログを使ってOSMにデータを追加すると、追加した線路や道路を制覇したような気分になれます。OSSには昔から関わってきて、世界中で連携しながら活動することについては慣れ親しんでいたのですが、やはりプログラミングができない人にとってはハードルが高いです。

OSMならスマホやGPS端末さえあれば参加できるので、これなら多くの人が参加できると思いました。そこで普及啓発のため、2007年末から2008年春にかけてOSMのアカウント登録やマッピングのやり方などを解説したWikiのページを翻訳し、2008年3月にはOSMを紹介するウェブサイトを立ち上げてメーリングリストも作りました。

――そのような活動によって、マッピングが好きな人の輪が広がっていったのですね。

三浦 そうですね。ちょうど2008年3月頃に、イギリス在住の有名なマッパー(地図製作者)が日本を旅行することを知ったので、その方にお願いして日本でOSMに関するセミナーを開催したところ、OSMに興味のある仲間が何人か集まりました。セミナーでは講演だけでなく、外に出てマッピングの実演も行われました。

さらに、そのときに知り合った仲間達と一緒に、同じ年の7月に国内初のマッピングパーティも開催しました。このマッピングパーティでは、鎌倉駅に集合して、海側ルートと山側ルートに分かれてマッピングを行い、最後にお互いの成果を共有し合いました。また、同じ時期に、2022年まで長らく副理事長を務めた井上さんと一緒にSotM(State of the Map)の国際カンファレンスにも参加し、日本でのOSM活動について紹介しました。

OpenStreetMap公式サイト@OpenStreetMap
OpenStreetMap公式サイト@OpenStreetMap

法人設立により活動の幅が拡大、2度の国際カンファレンスも開催

――OSMFJはどのような経緯で設立されたのでしょうか?

三浦 次第にOSMのコミュニティの輪が広がっていき、みんなでマッピングを楽しんでいたのですが、2009年末から2010年にかけて、OSMに関わる知的財産の保護やインターネットドメインの保護・維持管理を行ったり、地理空間データを公開する団体にデータ使用を打診したりする活動を行いやすいように、法人を設立しようと考えました。法的な立場をきちんと確立させることにより、社会のルールに乗っ取って権利関係などを整理する必要があったからです。

一般社団法人の設立準備を始めたのは2010年5月頃で、同年12月にOMSFJが設立されました。OSMFJの設立は、国土地理院が公開している地理空間データの利用申請や、ヤフー株式会社が保有する旧アルプス社の地図データをOSMへインポートするなど、日本地域のOSMデータが充実するきっかけにもなりました。

――ヤフーの地図データのインポートが行われたことにより、日本地域のOSMデータはどのように充実したのでしょうか?

三浦 インポートは2011年3月頃に始まり、12月頃にかけて作業が進みました。それまでは人口が多い地域や、マッピングに熱心な人がいる場所だけは充実している一方で、場所によってはほとんど情報がないエリアも少なくありませんでした。まだ何も情報がない白いエリアに情報を追加するのは地図に慣れていない人にとって難しいので、道路が一通りすべて入ったことはとても大きかったです。道路が入っていれば、それに沿って道路の情報も追加しやすくなります。

――OSMFJ設立以降の活動について教えてください。

三浦 2011年3月に発生した東日本大震災では、OSMコミュニティおよびOSMFJの有志を中心に、コミュニティ外とも協力しながら現地状況報告サイト「sinsai.info」が開設され、安否確認をはじめ現地のさまざまな災害情報が公開されました。2012年にはOSMの国際カンファレンス「State of the Map(SotM) Tokyo」を日本で開催し、世界中から多くのマッパーが集まりました。

SotMの国際カンファレンスはその後、2017年にも会津若松にて開催しています。また、地域カンファレンスとして「State of the Map Japan(SotMJ)」も2年に1回のペースで開催しており、最近では兵庫県加古川市において2022年12月3日に開催された地域カンファレンス「State of the Map Japan 2022 in Kakogawa」(主催:State of the Map Japan 2022 実行委員会/Code for Harima)にも共催しました。

このほか、日本地域のプロジェクト支援として、イベント情報などを発信するウェブサイト「OpenStreetMap Japan」やコミュニティ向けの地図タイル配信サーバーの構築・運用なども行っています。なお、OSMFJは2020年、英国OpenStreetMap Foundationの地域支部として正式認定されました。地域支部になるにあたっては、2018年頃から英国と日本の両国の特許庁に連絡して手続きし、OSMの商標の移管を行いました。

OpenStreetMap Japan

マッパーの思いを大事にしつつデータ品質を向上

――直近で行われた加古川のイベントを通じて、OSMを取り巻く状況に何か変化は見られましたか?

三浦 OSMのビジネスの活用が進んで、多様な企業がOSMデータに興味を持って活用し始めていると感じました。また、今回は登壇者の中に議員の方がいて、行政が保有する航空写真をOSMの背景として利用できるように交渉したという発表がありました。このような自治体や政府が持っているデータをオープンにして活用する取り組みが進んでおり、地図の世界をよりオープンにしていこうというモチベーションを持つ人が増えていることを実感しました。

最近はデジタルツインなど、オープンデータを活用して街の状況をシミュレーションする取り組みが進んでおり、そのようなデータのひとつとしてOSMも期待されているのだと感じます。また、マッパー側もOSMが色々なサービスに使われ始めていることが念頭にあるので、それが自分の街のマッピングを拡充していくモチベーションになっていると思います。

――OSMコミュニティはほかのコミュニティに比べてどのような特徴がありますか?

三浦 ヒエラルキーを感じさせず、マッパー同士の関係が非常にフラットなところだと思います。場所ごとに「このエリアは自分の担当」と分担する意識があって、1人1人が自分のテリトリーをメンテナンスしていくという雰囲気ですね。

ただしOSMでは、一時期少しだけマッピングに参加して、すぐにいなくなってしまう方も多いです。OSMはつい最近、全世界でアカウントの登録者数が1000万人を超えましたが、1000万人が常時活動しているかというとそうではなく、アクティブに活動している方は数%です。OSMへの興味関心を継続させるのはなかなか難しく、それが課題となっています。

――OSMのデータ整備は、個人だけでなく企業によって行われることも増えてきているのでしょうか?

三浦 OSMを自社サービスに利用するため、品質向上のために業務としてマッピングを行っている企業の方も一定数存在します。中にはAIを活用してマッピングを自動化させる取り組みを行っている企業もあり、一般のマッパーを大事にしながら、そのような最新技術をどのように活用していくかという議論も活発になってきています。基本的には、これまで草の根で地道にマッピングを行ってきた個人を大事にしていくという方針ですが、企業としてもデータの品質を高めることは大事なので、うまくバランスを取る必要があります。

たとえば国交省が主導する「PLATEAU」のデータはOSMにも取り込めるライセンスになっていますが、あのデータがすべて正しいわけではなく、中には古い情報もあるので、マッパーが現地に行って現状を確認したものを正解として反映することにしています。できるだけ個人のマッピングへの思いを大事にしていきたいし、とくにマッピングパーティなどは地域で人と人とをつなぎ合わせる“社会活動”としての側面もあるので大切にしていきたいですね。

――OSMFJの今後について、展望をお聞かせください。

三浦 OSMFJでは中期目標として、毎日OSMの地図を編集してくれるアクティブなメンバーを増やしていきたいと考えています。OSMの統計情報サイト「OSMstats」によると、日本におけるデイリーアクティブメンバーズは現在、1日に100~150人くらいで推移していますが、これを2024年末くらいまでに200人まで引き上げたいと思います。そのために、活動している人が少ない地域で、OSMに関するセミナーやマッピングパーティなどのイベント開催を支援していきたいと思います。そのような活動をOSMFJが自ら行うのには限界があるので、その地域の人が中心となって仲間を作っていけるような環境を作りたいですね。

また、企業のみなさんにも、もっとOSMを活用し、コミュニティに参加していただきたいと思います。SotMJのイベントでは、エンジニアや地図の専門家、自治体など幅広い方が集まりますので、他のイベントでは出会えないような人とネットワーキングできるチャンスですので、こちらにもぜひ参加していただき、ビジネスチャンスを掴んでいただきたいと思います。

日本のOSM編集状況
(出典:OSMstat

URL

OpenStreetMap Japan | 自由な地図をみんなの手で/The Free Wiki World Map
https://openstreetmap.jp/

【ジオ用語解説】オープンストリートマップ – Graphia – 地図や位置情報に特化したWebメディア「graphia(グラフィア)」
https://graphia.jp/article/2021/05/27/249/

【インタビュー】コミュニティベースで地図のデータを整備。OSMを通じて目指すデジタル地図の“民主化” – Graphia – 地図や位置情報に特化したWebメディア「graphia(グラフィア)」
https://graphia.jp/article/2021/10/12/354/

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