シビックテック支援や行政コンサルなどさまざまな立場を兼任することで課題の最先端にリーチ。テクノロジーを活用して民主主義を改善

一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事/合同会社Georepublic Japan代表社員CEO 関治之氏インタビュー

日本各地のシビックテックコミュニティの活動を支援するとともに、イベント開催や情報発信、行政コンサルティングなども行っている「一般社団法人コード・フォー・ジャパン(CfJ)」。そのCfJの代表理事を務めているのが関治之氏です。関氏はデジタル庁のシニアエキスパートでもあります。

関氏は、かつては位置情報を活用したメディア(ジオメディア)をテーマとしたフリーカンファレンス「ジオメディアサミット」の主催者を務めたこともあり、今もなおGISソリューションを提供するGeorepublic JapanのCEOとして地理空間情報の最新技術をキャッチアップしながら、シビックテックやガバメントテックなどの活動に役立てています。

今回は関治之氏に、シビックテックや地理空間情報に関連したこれまでの取り組みと、今後の展望について話をお聞きしました。

関治之氏

位置情報メディアのカンファレンス「ジオメディアサミット」を開始

――まずは関さんと地理空間情報との出会いについてお聞きしたいと思います。地理空間情報のどのような点に魅力を感じたのでしょうか?

関氏 地理空間情報に関わり始めたのは、3G携帯電話にGPSの搭載が義務化された頃のことです。携帯電話は誰もが持ち歩くデバイスなので、位置情報と地域に紐付く情報を連携させることで何か面白いことが起こると考えて、2006年にモバイル関連サービスを扱っていたシリウステクノロジーズに入りました。

携帯電話にGPSが搭載されて何が面白かったのかというと、位置情報によって人が主体的に外へ出て動くようになり、それによって現実世界とつながる点です。現実世界の行動の結果がインターネット上に反映され、逆にインターネット上の情報が現実にフィードバックされることで、様々な可能性が一気に広がるのではないかと期待しました。

――「ジオメディアサミット」はどのような経緯で開催することになったのでしょうか?

関氏 シリウステクノロジーズでは、携帯電話のGPSで取得した位置情報をもとに現在地周辺の広告を表示させるサービスを提供していたのですが、その頃はまだ位置情報を使ったメディアは少なくて、まずはメディアを増やす活動をしたいという思いがありました。

また、私はオープンソースのコミュニティにも参加していたので、技術者を集めて交流できたら面白いと思って、ジオメディアサミットを開始しました。最初は飲み会から始まり、そこに集まった人たちが面白い人たちばかりだったので、次第にフリーカンファレンスへと発展しました。当時は位置情報関連の技術はまだ新しくて、知っている人も少なかったし、オープンに知識を共有することによってジオメディアが広がっていくことがとても楽しかったです。

ジオメディアサミット(2013年撮影)

シビックテックコミュニティ「Code for Japan」を設立

――そのような活動がGIS会社のGeorepublic Japanの設立や、東日本大震災の復興支援活動「sinsai.info」につながったのですね。

関氏 そうですね。sinsai.infoは主にOpenStreetMap(OSM)のコミュニティの力が大きかったです。東日本大震災の前年に起きたハイチ地震などで、すでに災害復興支援活動などに取り組んでいたOSMコミュニティのメンバーがいたので、地震発生から4時間という短い間に災害情報の集約システムが稼働しました。その後、多数のボランティアの技術者のおかげで、大量のアクセスに耐えうるサイトとなりました。

震災時には多くの被災地情報が飛び交いましたが、情報が分散されたり、デマが流れたりすることもあったし、土地勘のない遠隔地にいる人には現地で何が起きているか把握しづらいといった問題も起きました。それを解決するために、クラウドソーシングでとにかく情報を集めて、正しそうな情報だけを抽出して地理的に情報が整理することの良さを示せたのがsinsai.infoの成果だったと思います。

一方で、得られた情報の中には届いた時点では古くなってしまったものも多く、載せても意味のないものもありました。もし、震災が起こる前から現地のコミュニティと連携していたら、もっと新しい情報をタイムリーに出せたはずです。また、情報を収集する中で、「手伝いたい」「ボランティアをしたい」と手を挙げる人がいても、現地のボランティア受付窓口などに伝えることができず、単に情報を出すだけとなってしまったことも課題のひとつとして残りました。

そのような課題を自治体の人たちと色々話す中で、やはり組織として継続的に活動して地域の人々の実際の課題に入り込んでいかないと、本来の意味での課題は改善されないと感じました。このような思いがシビックテックコミュニティ「Code for Japan(CfJ)」の設立につながっていきました。

sinsai.info

――CfJは2013年にスタートし、今年で10年目となりますが、この10年を振り返ってみていかがでしょうか?

関氏 最初はコミュニティ活動の延長で、ジオメディアサミットと同じようにとにかく人と人をつなげていこうと考えていました。初めから既存の数十のブリゲード(各地のシビックテックコミュニティ)が参加してくれて、それは大きな広がりを見せました。

一方、地域の様々な課題を解決しようとしていく中で、実際に手を動かす必要に迫られる機会が増えていきました。ところが普通のオープンソースコミュニティやオープンカンファレンスとは違って、シビックテックの活動をしている人はそれほど多くなく、「誰かがやらなければいけない」という悩みが自治体から寄せられることが増えていきました。そこで、アイデアソンやハッカソンを開催するなど、できる範囲でお手伝いをする機会が増えてきました。

たとえば福島県浪江町でタブレット端末を避難生活中の住民に配布する際に「きちんとタブレットが使われるようなアプリを入れたい」という自治体の悩みに対して「今までのやり方ではなく、アジャイルで開発した方が良い」とアドバイスしたところ、自治体から「それをやってくれますか」と頼まれました。我々も実際にコミットしないと単なる理想論で終わってしまいますので、浪江町に行って働く人を探して派遣することで課題を解決するという取り組みを始めました。

そのようなことを他の自治体でもしていくうちに、ガバメントテック(GovTech)と呼ばれる領域がどんどん育ってきて、次第に各地の自治体から「データ活用のワークショップをやりたい」とか「オープンデータの研修をやりたい」といった要望が寄せられるようになりました。そして、それをひとつひとつ解決していくうちに自治体との信頼関係が生まれ、さらに相談事が増えていくという循環が生まれました。

そのような取り組みは“仕事”としてやらないと責任を持ってできないので、きちんとお金もいただくことになります。お金をいただければ、そのためのスタッフを雇えるようになるので、コミュニティ側でもさらに色々なことができるようになり、活動が広がっていきました。これはそれまでのジオメディアサミットなどとは違う広がり方でしたね。

「Code for Japan」公式サイト

色々な立場を兼任することで課題の最先端へリーチ可能に

――コミュニティの支援活動から始まり、様々な領域へ活動がどんどん広がっていったわけですね。

関氏 近年では、行政機関や研究機関と一緒に新規サービスの創出やDXに取り組む「GovTech協働プログラム」という取り組みも行っています。たとえばコロナ禍の2020年春には東京都の受託事業として「東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイト」を開発し、GitHubでオープンソースとして公開しました。このプロジェクトに対しては世界中から貢献があり、3週間の間に224名のエンジニアが改善に協力しました。このほか、自治体や企業で働いている人にCfJへ来ていただいて一緒に働くという取り組みも行っており、今は小田原市から出向者に来ていただいています。

最近では、2021年に日本初となるシビックテック領域特化型のアクセラレータープログラム「シビックテック アクセラレーター プログラム(CAP)」も開始しました。これはいわゆるソーシャルスタートアップを始めているアーリーステージの人たちに対しての取り組みで、スタートアップ向けのアクセラレーションプログラムのソーシャルビジネス版をやらせていただいてます。

――関さんは現在、デジタル庁のシニアエキスパートや、東京や神戸など様々な自治体のフェローやCIO(チーフイノベーションオフィサー)も務めていますが、多様な立場を兼任することでどのようなメリットがありますか?

関氏 デジタル庁では、自治体向けの共創プラットフォームのマネージメントや、リサーチやデータ収集など、色々なプロジェクトのお手伝いをしています。自治体での活動についてはDXの支援が多いですね。CfJで活動している中で関わった自治体から要請を受けているケースが多いです。

色々な立場を兼ねることのメリットは、様々な課題の最先端にリーチができることです。自治体の中の課題は外から見たらなかなかわかりませんが、職員として働いていると色々な姿が見えてきます。「こういうソリューションを作ったほうがいい」というのも思い浮かべやすいし、「使ってみたい」と思う人も見つけやすいので、課題をうまく発見してソリューションを当てはめるときに、色々な立場を兼ねているほうが良いものを作りやすいという感覚があります。

テクノロジーを活用して民主主義を改善

――地域や自治体の課題を解決する上で、地理空間情報はどのように重要だと思いますか?

関氏 地理空間情報は今後ますます“相互運用性”の面で重要になっていくと思います。多くの地域課題は自治体の境界内だけで閉じられていないものですが、GISには標準形式があるので情報共有しやすい。自治体や地域、民間企業などがデータで連携できるというのはすごく大事だと思います。これから人材が足りなくなる中で、自動化や効率化のために技術を使わないといけなくなるし、多くの課題は地理空間情報につながっていることが多いので、それをきちんと実装していくのはとても大切です。

――地理空間情報の分野で最近注目している話題は何ですか?

関氏 先日、CfJで日本の住所表記に関する課題をテーマとしたイベントを開催したのですが、アドレス・ベース・レジストリなど標準化に関する動きには大きく注目しています。あとはPLATEAUなど3Dデータの整備が進むことによって、今後どのようなソリューションが出てくるかとても楽しみですね。

また、生成AIについても注目しています。Georepublic Japanのプロダクトとして、オープンソースのプロジェクト管理ソフト「Redmine」のタスクやプロジェクトに位置情報を付与するプラグイン「GTT Plugin」を提供していて、これにはイシュー(課題やタスク)のタイトルから内容を自動的に生成する機能を搭載しています。GTT Pluginは市民と自治体との情報共有ツール「MyCityReport」などにも使われていますが、生成AIはこのような分野にかなり役立つと思います。ただし、言葉で表現できるデータばかりではないので、生成AIは必ずしも何にでも使える魔法のツールというわけではないですが、使いどころは色々あると思います。

GTT Plugin

――関さんが今後目指していることを教えてください。

関氏 やはり“オープン”であることには今後もずっとこだわっていきたいと思います。僕はもともとオープンソースのコミュニティが好きですし、オープンで透明性を高くしているからこそ、色々な組織を兼任してもきちんと信頼していただいてるのだと思います。

今後については、シビックテックの分野では民主主義を改善するテクノロジーが今大きな話題となっていて、「AIを使ってどのように民主的な議論を改善するか」とか、「AIに課すべきルールを専門家だけに任せずに、みんなで決めたほうがいいのではないか」という議論などが注目されています。市民が政治や町作りに参加する機会を増やしたり、ボランタリーな活動に参加することで貢献が可視化されるようにしたり、もっと日常的な意思決定に市民が参加するような機会作りを増やしたいと思います。新しい技術を使って民主主義を改善するというのは重要なことだし、これからも取り組んでいきたいですね。

あと、地理空間情報の面では、やはり便利なソリューションをこれからも作っていきたいし、オープンソースソフトウェアやオープンデータをどんどん増やす活動をしていきたいです。とくにスマートシティの分野では、FIWAREというオープンソースのプラットフォームが国の標準として利用が推奨されている中で、その上にさらにオープンな技術スタックを積み重ねていきたいです。オープンソースを活用して企業が様々なソリューションをどんどん作っていくことで、様々な業界でまとまったオープンソースのエコシステムが生まれていく流れとなると思うので、それに対して僕らもどんどん技術を提供していきたいですね。

――日本におけるシビックテック活動の現状についてどう思いますか?

関氏 各地のブリゲードの尽力により、日本においてシビックテック活動は確実に根付いてきているとは思いますが、台湾などもっと活発な国に比べると、もう少し頑張らないといけない部分はあると思います。台湾は日本と違って民主主義に対する危機感が違うし、「戦って勝ち取らないといけない」と彼らは思っているので、民主的な活動に対する参加の意欲にも違いがあります。

一方で、「人のために何かやりたい」という気持ちはどこの国でも変わりません。日本でも、うまく課題をセットしてシビックテックの活動の機会を作り、モチベーションを向上させれば活性化につながるので、“良いサイズ”の課題をどんどんことが大事だと思います。参加の機会を増やしていくことは自治体やコミュニティの役割でもあるし、僕も一緒に取り組んでいきたいと思います。

URL

一般社団法人コード・フォー・ジャパン | Code for Japan
https://www.code4japan.org/

ホーム | Georepublic – Location Technology Company
https://georepublic.co.jp/

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