地図や人流データを活用した分析で多様な未来予測を実現。パートナー企業とともに地理空間情報を活用した社会課題解決に貢献

ジオテクノロジーズ株式会社 執行役員 メタバース アプリケーション事業統括 豊田俊作氏インタビュー

1994年にインクリメント・ピー株式会社(インクリメントP)として創業し、2022年に社名変更して新たなスタートを切ったジオテクノロジーズ株式会社。同社はカーナビ向けの地図データやウェブ地図サービス「MapFan」などをはじめ、移動によりポイントを獲得できるM2E(Move to Earn)アプリ「トリマ」など地理空間情報に関する幅広いプロダクトやサービスを展開しています。

最近では同社が保有するビッグデータと様々な業種業態のパートナー企業を組み合わせた未来予測プラットフォームをパートナー企業とともに推進する「ジオプリディクション・パートナーエコシステム」プログラムも新たに開始しました。

今回は、同社において新規事業の開発を担当するメタバース アプリケーション事業統括の豊田俊作氏に、ジオテクノロジーズの取り組みと今後の展望についてお聞きしました。

豊田俊作氏

地図データ事業を中心に多様なビジネスを展開

――貴社は地図会社として長い歴史を持っていますが、創業からこれまでの歩みを教えていただけますか?

豊田氏 弊社は29年前にパイオニア株式会社の子会社として、カーナビ向けのデジタル地図を整備することを目的にスタートしました。そこからGIS(地理情報システム)向けの地図データや地図APIなどの提供や、パソコン用の地図ソフトやWeb地図サービス「MapFan」、スマートフォン用地図アプリなどコンシューマー向けサービスを展開してきました。

コンシューマー向けとしては、最近ではポイ活アプリ「トリマ」を2020年に提供開始し、そこから人流ビッグデータを取得したり、広告やリサーチのサービスを展開したりと、様々な分野に取り組みを広げています。2021年にはパイオニア株式会社より独立し、その半年後に社名を変更して現在に至っています。

Web地図サービス「MapFan

――現在、地図データを中心にどのようなビジネスを展開されているのでしょうか?

豊田氏 事業という側面では、地図データ事業を柱として、このほかに自動車関連の事業と、それ以外のエンタープライズ領域としてGISの事業を展開しており、さらにトリマのようなアプリケーション事業が加わります。

一方、プロダクトの軸で見ると、地図データについては「データベースとして販売」、「APIとして配信」、「アプリやウェブでコンシューマー向けにサービスとして提供」という3つの側面があり、それ以外のプロダクトとしてはトリマおよびそれを使った広告サービスとして「トリマ広告」、リサーチサービスとして「Geo-Resarch」、さらに人流データを提供しています。

このほか、最近では物流向けサービス「スグロジ」や歩数共有アプリ「みんなの歩数計(みん歩計)」などのアプリも提供開始しました。

――地図データの整備については、近年はどのような取り組みを行っていますか?

豊田氏 地図整備のDX化の取り組みとして、AI(人工知能)とRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の2点を推進しています。AIや機械学習を使って衛星データや航空写真から家形データを抽出したり、過去と現在を比較して変化が起きた場所を探して効率化を図ったりするとともに、RPAでは地図制作を行う上で発生する定型的な前処理や後処理を自動で行っています。

ただし、完全な自動化はまだ難しいので、半自動で人の手による工程も残しており、それによって地図の精度や品質を担保しています。以前はAIやRPAに投資するとなると莫大な資金が必要でしたが、近年は技術の進歩によりコストが下がっており、今後もDX化の取り組みは継続して推進させていきたいと考えています。

地図と人流データを組み合わせて新たな付加価値を創出

――地図会社としての貴社の強みを教えてください。

豊田氏 そもそも全国の地図を道路から家形(建物の形)、POI(地点情報)に至るまで、フルスタックでデータを整備している地図会社は日本ではほとんど存在しません。さらにその地図データについても、弊社はスマホにおいてほぼ100%のシェア※を持っており、カーナビ市場でも高いシェアを持っているのは大きな強みであると考えています。

※ジオテクノロジーズ調べ

もうひとつの特徴は、トリマなどのアプリによってコンシューマーとの接点を持っていることです。もともと弊社ではウェブ地図サービス「MapFan」などを提供していましたが、トリマを提供開始したことでコンシューマーとの接点がさらに増えた形となり、これを活かすことによって新しいものを作っていけると考えています。

さらに、トリマによって得られた膨大な人流データを蓄積している点も強みです。静的なデータである地図と、動的な人流データの2つを併せ持っており、これらをかけ合わせて分析できる弊社独自の「ジオプリディクション・プラットフォーム(Geo-Prediction Platform:GPP)」によって新たな付加価値を生み出すことができます。

つまり“to B”では地図と人流の両方のデータを併せ持っていること、そして“to B”と“to C”の両輪でビジネスを展開している点の2つが弊社のユニークなところだと思います。

――GPPとはどのようなプラットフォームなのでしょうか?

豊田氏 GPPは弊社が保有するデジタル地図と人流ビッグデータを活用して、未来予測を支援するプラットフォームです。たとえば弊社は長年オートモーティブ事業に取り組んできたので、渋滞予測に関するノウハウを持っています。渋滞を予測すれば渋滞解消につながるし、それによってCO2も削減され、社会課題の解決につながります。

このように未来予測というのは様々な社会課題に紐付いており、渋滞予測のほかにも、災害を予測すれば人の命が救われるし、店舗の需要を予測すれば在庫管理が最適化されてフードロスの解消や資源の節約につながります。ほかにも地図データや人流データに様々なデータを組み合わせることで、多様な予測が実現できると考えています。

――「トリマ」の事業は貴社のビジネスに大きく貢献しているのですね。

豊田氏 コンシューマー向けのサービスにおいてユーザーから支持を得るのは難易度が高いと思っていたのですが、トリマはうまくユーザー数を伸ばすことができました。このアプリは現在、月間アクティブユーザー数が約400万人とかなり多く、1日に10億ログという大量の人流データを取得することが可能となり、これまでとは違うビジネスモデルが組めるようになりました。

トリマからユーザーの許可を得て取得する匿名の位置情報ビッグデータは、携帯キャリアが提供する基地局データをもとにした人流データよりも連続性が高く、解像度も高いのが特徴で、さらにユーザーの属性情報も含まれています。「移動によってポイントが得られる」というアプリの特性上、ユーザーは常に位置情報の取得をオンにして使用するので、バックグラウンド状態で高頻度に位置情報を取得することが可能なため、精度や品質において特に優れていると思います。

最近ではアプリのグローバル展開も進めており、現在は北米や東南アジアなど7カ国で展開しています。まだ本格的にマーケティングを行っていない2023年8月現在においてダウンロード数は北米では3万、全世界で4~5万という状況で、これからマーケティングを行っていくことで伸ばしていけるものと考えています。海外のユーザーが増えることにより、そのユーザーが日本を訪れたときの行動と紐付けることでインバウンドの動向も探ることが可能になります。

歩数共有アプリやNFTアートなどの新たな取り組み

――2023年4月には新しいコンシューマー向けアプリとして「みんなの歩数計(みん歩計)」もリリースしましたが、これはどのようなアプリなのでしょうか?

豊田氏 みん歩計は親子で使うことを想定していて、家族で歩数をシェアすることで「何時くらいに何歩歩いているのか」がわかり、それが見守りにつながります。トリマはどちらかといえば若いユーザーが多いですが、みん歩計の場合は主にシニア層を対象としています。こちらもまだ本格的にはマーケティングを行っておらず、現在はユーザーからフィードバックを得ながら改善している段階ですが、ダウンロード数は順調に伸びており、ユーザーの離脱率がとても低いので今後に期待しています。

みん歩計

――2022年7月に発売した「地図アイコンNFT」や、2023年3月に発売した「地図NFTアート」など、NFT作品の提供にも力を入れてますね。

豊田氏 NFT作品については、弊社の地図データを“資産”と考えて、それを二次利用・三次利用できるものは何かと考えたときに、アイコンや地図そのものをNFT作品にして提供することを思いつきました。第1弾は位置情報が付いたNFTアイコン「GT Building Collection」で、日本各地のお城をドット絵で表現しました。

続いて今年の3月に発売したのが、自社で整備している地図データを活用して、地形や道路など街の特徴をアートとして表現してNFT化した「GT MAP ART COLLECTION」です。東京の「渋谷」や「東京都東部」、大阪の「難波」などをモチーフに各3種類ずつ、合計9種類のデザインを用意しており、ロットナンバー付きで世界に10枚しか存在しないアート作品です。

地図をベースとしているため、たとえばその土地が故郷や旅行先であれば思い入れがあるだろうし、そこにアート要素をプラスすることで大きな価値になると思います。地図自体、見ていて面白いものなので、アートとの相性は非常に良いのではないかと思います。

また、GT MAP ART COLLECTIONは、アートのモチーフとなった自治体に対して、売上の10%を寄附するというのが特徴で、地図会社がこのような寄附型のNFTアートを販売するのは日本初です。弊社のミッションは「地球を喜びで満たそう」というもので、寄附という行為は地球のためになることであると考えており、その一環として、NFTアートの場合は収益の一部を地域へ還元をすることにしました。このほかに、トリマにも寄附する仕組みがあります。

GT Building Collection
GT MAP ART COLLECTION

パートナー企業との協業により未来予測を実現

――現在、IT関連で注目している新技術を教えてください。

豊田氏 生成AIの進化には大変注目しています。とくに画像生成系のAIは面白いですね。地図も表面上は画像の一種であると言えるので、将来的には関わってくるのではないかと考えています。

また、データを組み合わせて分析するといったことについてもAIは役立つと思いますし、弊社が保有する地図データベースや、地図整備のために撮影した膨大な量の道路走行画像はAIの教師データとして貢献できると思います。AIが進化すると、保有するアセットが同じでもできることが増えてくるので今後が楽しみですね。

――今後の展望についてお聞かせください。

豊田氏 今年の6月に、GPPに様々な業種・業態のパートナー企業の知見を組み合わせることで共同のソリューションを開発するためのパートナープログラムとして、「ジオプリディクション・パートナーエコシステム(GPPE)」を立ち上げました。

GPPEではパートナーを販売パートナー、OEMパートナー、トリマ再販パートナー、コンサルティングパートナーの4種類に分けた上で、共同マーケティングや営業支援など共通のルールを設けて様々な支援を行います。これにより、様々な企業が保有する独自のデータを組み合わせることで、これまでできなかった予測を実現したいと考えています。現在、パートナー企業は70社を超えており、今年中には100社を目指しています。

GPPEの発表にあたっては「ジオテクノロジーズパートナーエコシステムサミット2023」というイベントを開催して、多くのパートナー企業の皆さんに集まっていただき、弊社の“未来予測”というビジョンに共感していただきました。今後はGPPEのパートナー企業を着実に増やしつつ、弊社が持っていないデータを提供していただいたり、弊社が分析した結果を活用していただいたりしながら、パートナー企業と一緒に未来予測を実現していきたいと思います。

URL

ジオテクノロジーズ株式会社
https://geot.jp/

MapFan – 地図・ルート検索
https://mapfan.com/

トリマ | 移動するだけでポイントが貯まるポイ活アプリ
https://www.trip-mile.com/

Geo-Research | ジオテクノロジーズ株式会社
https://geot.jp/products/cloud_service/research/

スグロジ|物流・配送業向けトラック対応カーナビ、動体管理
https://www.sugulogi.com/

みん歩計 | 歩数でつながる、みんなの暮らし
https://www.minpokei.com/