位置情報ビッグデータの可能性は「伸び代しかない」。人流を捉えて地域課題解決やインバウンド対策を支援。マルチソースのデータ活用で幅広いニーズに対応

株式会社ナイトレイ CEO 石川豊氏インタビュー

位置情報ビッグデータ(人流データ)を活用した地域活性化支援ソリューションを提供する株式会社ナイトレイ。2011年に創業した同社は、2015年にインバウンド対策に特化したビッグデータ解析サービス「inbound insight(インバウンドインサイト)」を提供開始し、2020年にはその進化版となるサービス「CITY INSIGHT(シティインサイト)」をリリースしました。

CITY INSIGHTは、SNS解析データに加えてスマートフォンから取得されるアプリGPSデータや携帯電話の基地局データ、キャシュレス決済データ、車両走行データなど、様々な企業が生み出す位置情報ビッグデータを解析し、顧客の課題や「知りたいこと」起点でデータを掛け合わせて分析できるサービスです。

ナイトレイ社では「データからできること」ではなく顧客のニーズに合わせたデータ活用の提案を得意としているため、地域課題解決やまちづくり、観光、インバウンド対策など領域を問わず対応でき、地域活性化につながる支援を行っています。

今回は同社CEOの石川豊氏に、ナイトレイの取り組みと今後の展望、位置情報ビッグデータを活用したビジネスの最新動向について話をお聞きしました。

ナイトレイCEOの石川豊氏

インバウンド対策の支援サービス「inbound insight」を2015年に提供開始

――ナイトレイを設立してからinbound insightを提供開始するまでの経緯をお聞かせください。

石川氏:当社が創業した2011年はちょうどスマートフォンが普及しつつある状況で、そのような様々なモバイルデバイスから得られる位置情報データを解析することによって、地球の表面上で人々がどのような活動をしているかを読み解き、課題解決に役立てられるのではないかと考えて会社を創業しました。当初は日本人がオープンなSNS上に投稿した内容を中心に解析することに注力し、大学との共同研究や観光メディアや地図会社などとも連携しながら、事業としてどのように伸ばしていけるかを探っていました。

そのような中、観光メディアから「訪日外国人の動向を分析してほしい」という要望があり、これまで培ってきた技術と経験を活かして訪日外国人のSNS投稿内容を解析するチャレンジをすることにしました。観光というのは必ず移動が伴うし、出かけた先で景色や食べ物、名所など色々な写真やクチコミとセットで発信する人が多いので、位置情報ビッグデータとはとても相性が良いんです。SNS解析の技術の土台はすでに完成していたので、1カ月くらいですぐに開発することができました。そうして2015年に生まれたのがインバウンド対策向けビッグデータ解析サービス「inbound insight」です。

――inbound insightはどのようなサービスですか?

石川氏:inbound insightはブラウザで利用できるSaaS型分析ツールで、地図上に訪日外国人の周遊傾向や滞在分布などを国籍別に可視化することが可能で、現地で実際に発信されているSNS投稿内容を確認し手触り感のある情報を得ることができました。これによりインバウンド対策に積極的な企業や自治体の現状把握ニーズ、効果的な施策実行や効果検証をサポートするとともに、コンサルティング型のサービスとしてカスタマイズ分析レポートなども提供してきました。

リリース当時は訪日観光客の数が増えつつあり、外国人のニーズをいかに捉えるかが課題となっていたため大きく注目され、inbound insightダッシュボードの登録者数は大きく伸びました。また、位置情報ビッグデータ解析を必要としている多くの企業から「ナイトレイの技術を使って一緒に分析をしてほしい」という問い合わせが増えていきました。

SNSを解析すれば人の感情も読み解ける

――SNS解析データには、他の位置情報ビッグデータと比較してどのような特徴があるのでしょうか?

石川氏:位置情報ビッグデータというのは、そのほとんどが数値で表せる定量的な情報ですが、SNS解析データは投稿写真やコメントなど定性的な情報が含まれる点が大きな特徴です。

例えば、ある場所にアイスクリームが美味しいと評判の店があり、そこに多数の人が訪れている場合、定量的な位置情報データだけではそこになぜ人が集まるのかわかりません。しかし、実際に訪問した人々のSNS解析データがあれば写真やコメントを見ることによって、そこでアイスクリームを買っている人が多いことがすぐにわかるし、どのような商品が人気なのかということまでわかります。つまり、感情を読み解けるデータということですね。

ただし当社のビジョンとしては、けっしてSNS解析データだけにこだわっているわけではありません。SNS解析データというひとつのデータソースを使って、まずはinbound insightとして形にしましたが、SNS解析データだけではすべての事象を読み解くのは難しいです。そのため、次は他の定量的なデータソースを掛け合わせることにより、さらに多様な事象の解析をコスト面でも満足できる形で提供したいと考えて取り組んだのが、位置情報ビッグデータを持つ様々な企業との連携です。

――どのような企業とパートナーシップを結んだのでしょうか?

石川氏:当社との協業先の企業は、携帯電話会社や自動車メーカー、クレジットカード会社など多種多様です。本業は別に持っていて、それぞれの分野で高いシェアを持っている会社が多く、そのために多くの位置情報データを蓄積し、そのビッグデータを何らかの形で世の中の役に立つ形で提供したい、という思いを持つ企業が多いですね。彼らは本業として位置情報ビッグデータの活用や事業化に取り組んでいるわけではないため、それを本業としている当社と協業するメリットが生まれます。

inbound insightのリリース後は、事業の拡大と共にデータパートナーとの業務提携を拡大させてきました。

このような様々な企業との協業実績とコロナ禍におけるインバウンド需要の沈静化に対応することで生まれたサービスが、2020年に提供開始したCITY INSIGHTです。CITY INSIGHTでは、SNS解析データだけでなく、スマートフォンアプリから取得されたアプリGPSデータや携帯電話会社が保有する基地局情報に基づくデータ、自動車メーカーが保有する車両走行データ、クレジットカードの購買情報に基づく購入場所の位置情報データなど人流を捉えることができる各社の人流データのほか、国や自治体が公開しているオープンデータなど、様々なデータを掛け合わせて解析できるサービスです。インバウンドだけでなく日本人旅行者や日本人生活者の分析にも対応することで、観光だけでなく地域活性化やまちづくり、防災など多種多様な領域に活用できます。

CITY INSIGHT(ある時期の大阪府内における訪日アメリカ人による投稿解析データ表示例)

マルチソースの位置情報ビッグデータを掛け合わせることができる「CITY INSIGHT」

――サービス名をCITY INSIGHTと名付けたことには、どのような狙いがあったのでしょうか?

石川氏:CITY INSIGHTを提供開始したときはコロナ禍の最中で、日本国内の居住者の動向にも対応できるし、コロナ禍が終わって外国人観光客が戻ってきてインバウンド解析のニーズが復活しても対応できるようなサービス名を検討しました。当社はコロナ禍になる前から位置情報ビッグデータに特化したサービスを提供してきましたが、その中で感じたのは「位置情報ビッグデータが活用できる分野は観光分析だけでなく、地域経済の分析や地域活性化の支援、地方創生などにも役立てられる」ということでした。

位置情報ビッグデータの活用法として、「日本中をすべて解析したい」というニーズはほとんどなく、また、「この店だけをピンポイントに解析したい」というニーズも少ないです。ちょうど市区町村〜都道府県レベルのエリアを解析したいというニーズが最も多く、それくらいの広さの経済圏について、人々の動きや滞在状況、消費動向などを居住者・旅行者問わず読み解けるサービスというコンセプトを伝えたいと思ってCITY INSIGHTと名付けました。

――CITY INSIGHTの特徴は何ですか?

石川氏:ひとつのサービスでマルチソースの位置情報ビッグデータ分析に対応できるというのは、CITY INSIGHT以外にはほとんどありません。CITY INSIGHTと協業しているデータパートナー企業の中にも独自にデータ提供サービスを提供しているところがありますが、それらはマルチソースにはほ対応していません。

私達は13年前に会社を立ち上げたときから、位置情報ビッグデータの収集/解析/分析をやりきることを目指していたので、それができているし、多くの企業と協業できているのだと思います。データを提供する企業からすれば、CITY INSIGHTのソリューションの中に自社のデータが入っていることにデメリットはほぼありません。データが利用されれば利用されるほど収益を上げられるし、顧客への営業活動もナイトレイが行うため、メリットのほうが多いです。

――今後、CITY INSIGHTをどのように発展させていきたいとお考えでしょうか?

石川氏:引き続きデータパートナーを拡大し、利用可能なデータソースのラインナップを増やしていきたいと考えており、常に複数企業との協業議論や実証実験を行っています。協業したい会社は、日本全国、あるいは世界中など広いエリアを捉えることができるビッグデータを持っている会社ですね。

また、CITY INSIGHTには、ソフトウェア型の分析ツールとセミオーダーメイド型サービスの2つの側面があります。ソフトウェアサービスは事前に構築したダッシュボードを提供するもので、利用できるデータも限られており柔軟性は低いですが、その分コストは低いです。まずは低価格で位置情報ビッグデータの価値を体験していただき、さらに複合的なデータ分析やソフトウェア以外の分析サービス提供はセミオーダーメイド型で対応させていただいています。

ただし、今後はこのソフトウェアサービスを更に伸ばしていきたいと考えています。現在取り組んでいるのは位置情報ビッグデータと生成AI技術を組み合わせることで、例えば地域課題の見える化や地域活性化アイディアや効果的なアクション案などを、データドリブンで人間ではできないようなスピードと質のアウトプットをAIによって簡単に行えるようにするとか、そのような新しい機能を開発中です。将来的にはCITY INSIGHTの海外展開も目指したいですね。

位置情報ビッグデータの可能性は伸び代しかない

――位置情報ビッグデータを活用したビジネスの可能性について、どのようにお考えでしょうか?

石川氏:この領域の市場規模は伸び代しかないし、下がる余地はないと考えています。ビッグデータ分析だけでなく位置情報広告や屋内測位、地図/GISなどの様々なプレイヤーがいて、顧客も官民問わず拡大していますが、全員でパイを広げていこうという状況なので、広がりきっていない現状において顧客や市場の囲い込み、奪い合いというのはあまりやるべきではないと思います。

LBMA Japanなどの業界団体の活動も活発ですが、この業界が一丸となって「位置情報ビッグデータに関する技術をもっと使っていこう」という機運を高めていくためにも、とにかく事例をたくさん作ることが大事で、この領域に注目する人たちを増やし、いかに“当たり前”にしていくかを考えていく必要があります。

そのためにも、集まった位置情報ビッグデータをしっかりプライバシーに配慮して運用し、社会に役に立つ形にしてデータを世の中に提供していくことが必要です。これからデータを提供しようと考える企業は増えていくと思うし、私達から「一緒にやりましょう」と声をかけることもありますが、「儲かりそうだからやろう」ではなくて、「様々な企業が保有する社会貢献性の高いデータを、いかに世の中へ役立てるか」という姿勢が大事だと思います。

URL

Nightley Inc. | 株式会社ナイトレイ コーポレートサイト
https://nightley.jp/

inbound insight インバウンド対策総合支援サービス
https://inbound.nightley.jp/

CITY INSIGHT (シティインサイト) 日本人生活者 / 旅行者分析支援サービス | 株式会社ナイトレイ
https://cityinsight.nightley.jp/