【ジオ用語解説】「GNSS」

GPSやみちびきなど現在位置を地図で確認できる衛星測位技術

スマートフォンの地図アプリやカーナビなどで自分の現在位置を地図上で確認できるのは、GNSS(Global Navigation Satellite System/全地球航法衛星システム)と呼ばれる衛星測位技術のおかげです。衛星測位というとGPS(Global Positioning System)という言葉のほうが知られていますが、GPSは固有名詞であり、米国によって運用されているGNSSの一種のため、スマートフォンに搭載されている衛星測位技術をまとめて「GPS」と呼ぶのは、厳密には間違っていることになります。

軍事用システムとして開発されたGPS、日本の「みちびき」など多彩なGNSS

米国のGPSは、もともとは軍事用システムとして使用されていましたが、1990年代に民間利用が許可され、以降は船舶や航空機、測量機器のほか、コンシューマー用としてはカーナビゲーション(カーナビ)をはじめ、さまざまな機器に受信機が搭載されていきました。現在は受信機の小型化が進み、カーナビだけでなくスマートフォンやタブレット、スマートウォッチ、デジタルカメラ、GPSトラッカーなど幅広いデバイスに受信機が搭載されています。

GNSSには、米国のほかにもロシアのGLONASSや欧州のGalileo、中国の北斗(BeiDou)などがあります。また、このような全地球をカバーする衛星測位システムのほかに、日本の準天頂衛星システム「みちびき」(QZSS)やインドのNAVIC(IRNSS)など特定地域向けの衛星測位システムも存在し、これらはRNSS(Regional Navigation Satellite System)と呼ばれることもあります。GPSだけに対応したGNSS受信機もありますが、GLONASSやGalileoなど複数のGNSSに対応した「マルチGNSS受信機」を搭載したデバイスも増えてきています。

GPS衛星の軌道イメージ(画像提供:米国政府)

GPS衛星の軌道イメージ(画像提供:米国政府)

スマートフォンやカーナビで利用されているGNSSは基本的に誰でも無料で利用可能で、スマートフォンユーザーやカーナビを利用するドライバー、受信端末を製造するGNSS機器メーカーや受信チップのメーカー、サービス事業者などがGNSSを運用する各国政府などに対して利用料などを支払う必要はありません。ただし、より高精度な測位を実現するための補正情報の取得については有料となる場合があり、その場合は利用者が補正情報の配信事業者などに料金を支払う必要があります。

衛星との距離から位置情報を割り出すGNSSの仕組み

GNSSの仕組みは、まず衛星から一定間隔で発信される信号(電波)を地上のスマートフォンやカーナビなどに内蔵されている受信機によって受信し、GNSS衛星と受信機の双方に搭載された時計をもとに電波の到達時間を計算して、そこから衛星と受信機の間の距離を割り出します。位置がわかっている複数の衛星から受信機までの距離を測定することで、三辺測量の原理により地上の位置を知ることができます。

なお、三辺測量であれば3つの衛星から受信機までの3辺の距離を測定すれば位置を特定することができますが、実際には衛星の時計と受信機の時計との間でズレが生じるためにもう1辺が必要となり、受信機から見通せる範囲内に4機以上の測位衛星が必要となります。

GNSSは、山岳地や、高層ビルなどの高い建築物に囲まれたエリアなどでは、衛星電波が建物や自然地形に乱反射(マルチパス)することで、衛星と受信機間の距離測定に誤差が発生し、その結果、位置情報に誤差が生じることがあります。このため、GNSS衛星は受信できる衛星の数が多いほど測位が安定するため、各国とも多数の測位衛星を運用しています。2020年12月2日現在で正式運用中のGNSS衛星の数は、GPSは31機、GLONASSは23機、BeiDouは45機、Galileoは24機、NAVICは8機、みちびきは4機です。

最新世代のGPS衛星となるナブスター・ブロックIII(画像提供:米国政府)
最新世代のGPS衛星となるナブスター・ブロックIII(画像提供:米国政府)

GNNSの精度を高めるさまざまな技術

カーナビやスマートフォンに搭載されている一般的なGNSS受信機は、単独の受信機で測位するため“単独測位”と呼ばれており、その精度誤差は5~10数メートルと言われています。このほかに、離れた複数の地点の相対位置を測定する“相対測位”や、時刻情報ではなく電波の波形の数によって衛星と受信機間の距離を測定する“搬送波位相測位(干渉測位)”と呼ばれる測位方式もあり、測量など高精度な測位が必要な場合に用いられます。

なお、衛星測位では、衛星自体の位置情報を収録した「衛星軌道データ」を受信機側が取得する必要があります。携帯電話回線などから衛星軌道データを取得するAssisted GNSS(A-GNSS)に対応したスマートフォンやGNSSトラッカーもあり、これらのデバイスではGNSS単独での測位よりも短い時間で現在地を測位できます。

衛星測位を使うことで私たちは地図アプリやカーナビなどで、特殊な技能を必要とせず、いつでも簡単に正確な自己の位置を知ることができます。これは紙の地図にはないデジタル地図ならではのメリットであり、地図を使う上での利便性向上につながるだけでなく、自動車や鉄道、船舶、航空機などのナビゲーションや運行管理、防犯・防災や遭難防止などの危機管理にも役立っており、今や私たちの生活に欠かせないものになりつつあります。

URL

米国のGPS公式サイト
https://www.gps.gov/

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