【ジオ用語解説】カーナビ

自動車の走行時に現在地や目的地までのルートを案内

カーナビ(カーナビゲーションシステム)とは、自動車の走行時にデジタル地図上で現在地の確認や目的地へのルート案内などを行う機器や機能を意味します。車載に固定して使用する専用機器や、持ち運びが可能なポータブル機器のほか、スマートフォンのカーナビアプリを指す場合もあります。

衛星測位による位置情報をもとに目的地に案内

カーナビの主な機能は、デジタル地図上に自車位置を表示し、それをもとに目的地への案内(ナビゲーション)を行うことです。地図画面上では目的地までの経路が表示され、交差点などで右左折する場合は矢印などで進む方向が示されますが、運転中は画面を注視することが難しいため、多くのカーナビはディスプレイ上の案内だけでなく、「次の交差点を右に曲がります」などと音声でも道案内を行います。

自車位置の把握には、基本的には米国GPSをはじめとしたGNSS(全地球航法衛星システム)で得られる位置情報が使われますが、測位衛星の電波は高い建物に囲まれた場所や山岳地、トンネルなどでは受信が難しいため、誤差を補うために、加速度センサーやジャイロ、車速信号、後退信号などの情報を組み合わせることもあります。

このようにして自車位置を把握することにより、その場所を出発地として目的地までの経路を検索することができます。経路検索は、道路と道路がどのようにつながっているかを表す「道路ネットワークデータ」をもとに行われます。道路ネットワークデータとは、交差点や分岐点など道路と道路をつなぐ地点を意味する「点(ノード)」と、ノードとノードをつなげるための「線(リンク)」の2つの要素で構成されており、それぞれに道路幅や規制速度、車線数、信号の有無など様々な属性情報を持っています。

なお、カーナビにはGNSSで取得した位置情報の誤差を、地図上の道路の位置に合わせて補正する「マップマッチング」という機能が搭載されており、このマップマッチングは道路ネットワークデータをもとに行われます。マップマッチングは「自動車は道路上しか走らない」ということを前提とした機能であり、歩行者も使うことを想定した地図アプリに比べて、カーナビ専用機やカーナビアプリのほうが測位精度が高く安定している印象を受けるのは、マップマッチングによる恩恵が大きいです。

また、カーナビには目的地の検索を行うための施設情報(POI)データも収録しています。これらの施設情報は、住所や名称、電話番号など様々な方法で検索することが可能です。

このほか、カーナビにはVICS(道路交通情報通信システム)や自動車会社・カーナビメーカーごとに収集しているドライバーの移動軌跡データ、カーナビアプリのユーザーの移動軌跡データなどをもとに走行中に渋滞情報を取得する機能を搭載しているものもあり、渋滞を避けた経路を案内することができます。

スマートフォンのカーナビアプリが普及

最初のカーナビは、1981年にホンダが発売した「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」と言われています。これは液晶ディスプレイではなくブラウン管を使用するもので、デジタル地図ではなくセルロイド製のフィルム式地図を使用しました。また、この製品はジャイロセンサーにより相対的な移動方向や移動量を表示するだけで、GNSS機能も搭載されていませんでした。

GPSを搭載したカーナビは、1990年にマツダのユーノスコスモに初めて搭載され、パイオニアも同年に市販モデルを初めて発売しました。幹線道路を外れると道路が入り組んで複雑になってしまう日本において、カーナビはドライバーのニーズに応えながら進化し、高機能モデルからシンプルな低価格モデルまで幅広い製品が販売され、次第に普及率が上がっていきました。

一方、道路がそれほど複雑でない海外では、固定式の高機能カーナビよりも、安価なPND(Personal Navigation Device)と呼ばれる携帯可能なナビゲーション機器が人気を集めました。しかし現在はスマートフォン用のカーナビアプリに置き換わりつつあります。

現在では日本でもスマートフォン用のカーナビアプリを使用する人が増えています。スマートフォン用のカーナビアプリは、乗車する前に検索エンジンなどと連携しながら行く先を検討し、目的地を検索してルートもじっくり検討できるなど、乗車するまでは操作できないカーナビ専用機に比べて使い勝手が良い面があります。

また、近年は「ディスプレイオーディオ(ディスプレイ搭載カーオーディオ)」というカーナビ機能を持たない車載機器にスマートフォンを接続して、スマートフォンのカーナビアプリを大画面で利用できる「Apple CarPlay」や「Android Auto」などの規格も普及しつつあります。カーナビアプリは無料で使用できるものも多く、コスト面から高価なカーナビ専用機ではなくディスプレイオーディオを選択する人も増えています。

代表的なカーナビメーカーであるパイオニアも2017年にディスプレイオーディオを発売し、2023年9月にはCarPlay/Android Autoに対応したスマートフォン用のカーナビアプリ「COCCHi」も提供開始しています。

ただし、カーナビ専用機はGNSSアンテナを電波の入りやすい箇所に設置することが可能で、自動車の車速情報も利用できるため、高層ビルに囲まれた都市部や山岳地などにおいては自車位置の測位精度がスマートフォンより優れている場合が多いです。また、スマートフォン用のカーナビアプリの多くは地図データをインターネット経由で取得するものが多く、モバイルネットワークの電波が入りづらい山奥などでは、地図データを内蔵するカーナビ専用機のほうが安心して使用できます。

Apple CarPlayでカーナビアプリの画面を車載機器に表示

通信型カーナビがコネクテッドカーへと進化

このようにスマートフォンのカーナビアプリへの人気が高まる一方で、カーナビ専用機にも通信機能を搭載したものやスマートフォン経由でインターネット通信を行えるものが増えていきました。

ホンダは1990年代後半、カーナビにインターネット通信機能を融合した「インターナビ」のサービスを開始しました。このような通信型のカーナビは、現在では車両自体に通信機能を持つ「コネクテッドカー」へと発展しています。

コネクテッドカーではインターネットを介して地図データを更新するだけでなく、センター側でのルート検索やAI音声エージェントなど様々な機能が利用できるほか、車両状態をもとに予防整備を行ったり、消防/警察への緊急通報を行ったりすることもできます。近年では、走行データをもとにドライバーの事故リスクを分析して保険料を算定する「テレマティクス保険」も提供されています。

スマートフォンのカーナビアプリやコネクテッドカーが普及するにつれて、「プローブデータ」と呼ばれる膨大な量の移動軌跡を集めたビッグデータへの注目も高まっています。プローブデータは、渋滞情報として利用されるほか、災害時に通行実績データとして利用したり、新規道路の開通を把握して地図データを更新したり、人流データとしてマーケティングに利用したりと、様々な方面で利活用が進んでいます。

なお、コネクテッドカーに関する話題としては、ナビタイムジャパンのカーナビアプリ「カーナビタイム」が2023年10月に、車載情報機器向けOS「Android Automotive OS(AAOS)」に対応したという発表がありました。AAOSは車載ハードウェア上で動作するオペレーションシステムで、アプリをスマートフォンではなく車載システムに直接インストールして利用できます。AAOSの搭載車では、車載システム内のGoogle Playでカーナビアプリをダウンロードすることで、スマートフォンを接続しなくてもカーナビアプリを利用可能となります。

このほか、カーナビ専用機については、ETC2.0との連動機能も進化しています。元々は有料道路の料金支払のための機器だったETCは、ETC2.0へとバージョンアップし、路上のビーコンと通信することで広範囲の渋滞情報をもとに迂回ルートを選択したり、これから向かう先の道路状況をナビ画面上に表示したり、災害時に支援情報を受け取ったりと、様々な機能が利用できるようになりました。また、近年では信号情報活用運転支援システム(TSPS)に対応したETC2.0車載器を使うことにより、ビーコンから得た信号情報をもとに早めの減速を促したり、赤信号の待ち時間の目安をナビ画面上に表示したりすることも可能となっています。

このようにスマートデバイスやETC2.0などが融合することにより、カーナビは今後もますます進化していき、その情報を映し出すための車載ディスプレイも大型化・高解像度化・マルチディスプレイ化していくことが予想されます。これから訪れる自動運転社会においても、自車位置の正確な把握と目的地までの最適なルート検索を実現するため、カーナビの技術はより重要になっていくと思われます。

URL

ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ|テクノロジー|Honda公式サイト
https://global.honda/jp/tech/Honda_Electro_Gyrocator/

パーソナルナビゲーションデバイス(PND):小型の携帯ナビゲーションシステム – JEITA半導体部会
https://semicon.jeita.or.jp/exposition/topics_01.html

iOS – CarPlay – Apple(日本)
https://www.apple.com/jp/ios/carplay/

Android Auto | Android
https://www.android.com/intl/ja_jp/auto/

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