ジオ専業ライター片岡義明氏が選ぶ「ジオ界 10大ニュース 2023」を発表!

地図や位置情報に関する国内の最新ニュースを配信する「GeoNews」主宰ジオ専門ライターの片岡義明氏が、地図や位置情報などジオ業界に関する興味深いニュースを選出する「ジオ界 10大ニュース」。2023年は片岡氏のご協力をいただき、graphiaにて10大ニュースを発表します。

ジオ界 10大ニュース 2023

前回の「ジオ界 10大ニュース」は、2021年から4月24日から2022年4月22日までの約1年間を対象となるニュースを選出していましたが、今回からは2022年度(2022年4月1日〜2023年月31日)の期間を対象としました。前回のジオ界 10大ニュースはこちらをご覧ください。

ジオ専業ライターが選ぶ「ジオ界 10大ニュース」イベントレポート – Graphia – 地図や位置情報に特化したWebメディア「graphia(グラフィア)」
https://graphia.jp/article/2022/06/01/528/

第10位:国土地理院、「だいち2号」の衛星データによる地表の変動分布図を公開

第10位:国土地理院、「だいち2号」の衛星データによる地表の変動分布図を公開

国土地理院は2023年3月28日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が運用する人工衛星「だいち2号(ALOS-2)」のデータを活用した全国の地表の変動分布図をウェブ地図サービス「地理院地図」にて公開しました。この変動分布図は、「だいち2号」が8年間かけて取得したSAR(合成開口レーダー)の観測データをもとに作成した多数の「SAR干渉画像」を統計的に処理することにより、微少な地表の動きとその時間変化を捉える「干渉SAR時系列解析」の解析結果をまとめたもので、火山活動や地盤沈下などによる地表の変動の広がりを確認できます。

この変動情報は、測量の基準の維持管理や、地盤沈下調査などの空間分解能の向上につながるため、国土地理院は変動情報を用いた測量マニュアルの整備などにより利用拡大を進めていく方針で、今後も新規の観測データを含めて解析を行うことにより変動分布図を更新していく予定です。

JAXAの陸域観測技術衛星「だいち2号」は衛星から地上までの距離の変化を数cmの精度で検出することが可能で、災害状況や森林分布の把握にも利用されています。同じ名を冠する「だいち3号」(ALOS-3)は残念ながら2023年3月のH3ロケット打ち上げ失敗によって残念ながら喪失となりました。しかし、2021年から2022年にかけて株式会社アクセルスペースや株式会社Synspectiveなど民間企業の衛星打ち上げが行われたり、衛星地球観測の推進を目的とした「衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO)」が発足したりと、衛星地球観測を推進する動きは着実に続いています。

だいち2号と干渉SAR時系列解析結果
https://www.jaxa.jp/press/2023/03/20230328-1_j.html

第9位:LBMA Japan、位置情報データの利活用に関する「LP(ロケーションプライバシー)認定制度」を開始

第9位:LBMA Japan、位置情報データの利活用に関する「LP(ロケーションプライバシー)認定制度」を開始

一般社団法人LBMA Japanは2022年10月、位置情報データ(デバイスロケーションデータ)の利活用について、組織や個人に対する「LP(ロケーションプライバシー)認定制度」を制定し、一般申し込みを開始しました。LMBA Japanの加盟企業である株式会社プライバシーテックが企画開発支援および運営を行います。

LP認定制度は、日本国内における位置情報マーケティング・サービスを推進するLBMA Japanが規定する「デバイスロケーションデータ共通ガイドライン」に準拠した組織と個人を認定する制度です。組織を認定する「LPマーク(ロケーションプライバシーマーク)」は、組織におけるデータマッピングや利活用時におけるルールなどを明文化した提出書類と、代表者と実務担当者に対する面談による審査を通して、プライバシーに配慮したガバナンスが一定水準に達していると認められる企業に対して、2年間の有効期限付きで付与されます。取得企業はウェブサイトや営業資料などの事業活動においてLPマークを活用できます。

個人を認定する「LPコンサルタント(ロケーションプライバシーコンサルタント)」は、実務におけるプライバシー対応への重要性や具体的な対応方法を体系的に学び、応用力を持った個人に対して付与されます。取得した個人は、自身の名刺やSNSに保有資格として記載することや、事業開発や顧客提案時におけるエキスパートとして、本資格を活用できます。

LP(ロケーションプライバシー)認定制度
https://www.locationprivacy.jp/lpm

位置情報データ活用の業界団体| Location Based Marketing Association Japan
https://www.lbmajapan.com/

第8位:全国の浅海域を航空レーザー測深で地図化する「海の地図PROJECT」がスタート

第8位:全国の浅海域を航空レーザー測深で地図化する「海の地図PROJECT」がスタート

日本財団と日本水路協会は2022年、日本全国の海岸線に続いている水深0~20mの“浅海域”と呼ばれるエリアを航空測量で地図化するプロジェクト「海の地図PROJECT」を開始しました。同プロジェクトでは、測深船が入り込めない浅海域において詳細な海底地形図を作るため、航空レーザー測深(ALB)という技術を使って調査を行い、約3万5000kmに及ぶ日本の海岸線のうち約90%を10年かけて整備する予定です。

海底の地形図は、これまで船による音響測深によって測量するのが一般的でしたが、浅海域は座礁の危険性があるため、測深船による調査が難しく、詳細な地形図のない“空白域”とも呼ばれていました。今回のプロジェクトでは、航空機から陸地や海に向けてレーザー光を照射し、地上や海底からの反射によって地形を測定する方法を採用することで、3次元の点群データを効率的に取得できます。陸地の形状を測定できる近赤外レーザーと、海底の地形を測定できる緑レーザーの両方を搭載して海岸付近を飛行し、連続的に計測することにより、陸地と海底を一挙に調査することができます。

同プロジェクトは2022年度から開始し、事業を3期に分けて計測に適した気象・海象や海水の透明度、災害の想定などを総合的に判断しながら実施エリアを選び、順次測定を進めていく予定です。

海の地図PROJECT
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2022/20221024-80874.html

第7位:位置情報ゲーム「TEKKON」がサービス開始

第7位:位置情報ゲーム「TEKKON」がサービス開始

NPO 団体Whole Earth Foundation(WEF)は2022年10月、位置情報ゲーム「TEKKON」の一般サービスを開始し、同ゲームのiOS/Androidアプリを提供開始しました。TEKKONは社会インフラの老朽化の課題に対して市民の力でインフラの安全を確保することを目的した社会貢献型の位置情報ゲームです。マンホールや電柱の写真を撮影・投稿したり、投稿された写真をレビューしたりすることで報酬となるポイントを受け取れます。

ポイントを使ってゲーム内に登場する犬のキャラクターのレベルを上げたり、犬の数を増やしたりすることで獲得できるポイントが変わる仕組みになっており、獲得したポイントはWEFが発行する暗号資産「Whole Earth Coin(WEC)」に交換できる「クリプトウォレット機能」を搭載しています。

位置情報ゲームについては、株式会社コーエーテクモゲームスが2023年3月に、新ゲーム「信長の野望 出陣」を開発中であることを発表し、クローズドベータテストの参加者を募集しました。現実の世界とリンクして遊べる位置情報ゲームには根強い人気があることがうかがえます。

TEKKON
https://lp.tekkon.com/

信長の野望 出陣 | コーエーテクモゲームス
https://www.gamecity.ne.jp/nobunaga_shutsujin/

第6位:準天頂衛星「みちびき」、海外でも利用可能な高精度測位補強サービス(MADOCA-PPP)の試験配信を開始

第6位:準天頂衛星「みちびき」、海外でも利用可能な高精度測位補強サービス(MADOCA-PPP)の試験配信を開始

新しい測位補強サービス「高精度測位補強サービス」(MADOCA-PPP)の試行運用が2022年9月に開始されました。MADOCA-PPPは、国内外のGNSS監視局網の観測データに基づいて測位衛星の誤差を計算し、みちびきのL6信号により補正データを送信するサービスで、ユーザーは対応受信機を使用することで高精度測位を行うことができます。

すでに実用化されているCLAS(センチメータ級測位補強サービス)やSLAS(サブメータ級測位補強サービス)は日本国内だけしか使用できないのに対して、MADOCA-PPPは海外のアジア・オセアニア地域でもRTK(リアルタイムキネマティック)方式のようにネットワーク回線を使用することなく高精度測位が可能です。

株式会社コアはこれを受けて、MADOCA-PPPおよびCLASの両方式に対応したGNSS受信機「Cohac∞ Ten+」を2022年9月下旬に発売しました。同製品はRTKにも対応しており、通常動作時はRTKで測位し、通信が不安定な場所ではCLASまたはMADOCA-PPPに自動的に切り替わる機能を搭載しています。

高精度測位補強サービス「MADOCA-PPP」|みちびきとは|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府
https://qzss.go.jp/overview/services/sv13_madoca.html

Cohac∞ Ten+
https://www.core.co.jp/system/files/2022-07/news_20220801.pdf(PDF)

第5位:MetCom、垂直測位サービス「Pinnacle」を提供開始

第5位:MetCom、垂直測位サービス「Pinnacle」を提供開始

MetCom株式会社は2022年10月、垂直測位サービス「Pinnacle」を正式に提供開始しました。同サービスは、通信機能を搭載した気圧センサーを気圧の“基準点”として都市の複数箇所に配置し、各基準点の気圧データを収集した上で、スマートフォン内蔵の気圧センサーの情報を近隣の基準点の気圧と比較することで、スマートフォンの高さをリアルタイムに推計するサービスです。サービス開始当初は東京と大阪の2エリアで提供開始し、2023年には東名阪および全国政令指定都市でも展開する予定です。

同社は2023年2月10日、災害時位置情報共有アプリ「ココダヨ」を提供する株式会社ゼネテックと協業し、従来の平面の位置情報に「高さ」を加えた3次元の位置情報を利用した防災・減災サービスの実現に取り組むことを発表しました。まずはココダヨにPinnacleを実装して、災害警報と連動して家族やグループメンバーの3次元位置情報を自動通知する機能の実装を目指しています。

「Pinnacle」のイメージ図
https://metcom.jp/service/pinnacle/

第4位:「デジタル田園都市国家構想」の基本方針が発表

第4位:「デジタル田園都市国家構想」の基本方針が発表

デジタル技術を活用して地方と都市の格差を解消し、地域の個性を活かしつつ地方の社会課題の解決を図る取り組み「デジタル田園都市国家構想」の基本方針が2022年6月に閣議決定されました。この基本方針では、デジタル田園都市国家構想を「新しい資本主義」の重要な柱の一つとして位置付けており、地方の社会課題を成長のエンジンへと転換し、持続可能な経済社会の実現や新たな成長を目指すとしています。

同構想の実現に向けた取り組みの方針としては、「地方に仕事をつくる」「人の流れをつくる」「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」「魅力的な地域をつくる」の4点を挙げており、その方向性としては「デジタルインフラの整備」「マイナンバーカードの普及促進・利活用拡大」「データ連携基盤の構築」「ICTの活用による持続可能性と利便性の高い公共交通ネットワークの整備」「エネルギーインフラのデジタル化」の5項目を挙げています。

このうち具体的な取り組みとして、社会のデータを国全体で整備をする「ベース・レジストリ」を推進するとともに、各地方公共団体が進めるオープンデータの取り組みを支援することが盛り込まれています。また、デジタルツインの実現のための地理空間情報整備や、準天頂衛星システムによる高精度測位情報と地理情報システムを組み合わせた地理空間情報の活用による統合型防災・減災システムの構築、テクノロジーを活用して市民が課題解決を図る「シビックテック」の推進や、モビリティ分野において「3次元空間ID」を含めたデジタルインフラの整備に着手することなど、地理空間情報に関連した取り組みが挙げられています。

デジタル田園都市国家構想
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitaldenen/index.html

第3位:高校の新学習指導要領で「地理総合」が必履修科目に

第3位:高校の新学習指導要領で「地理総合」が必履修科目に

高校の社会科系教科が改訂され、2022年度から新学習指導要領において「地理総合」が必履修科目となりました。地理はこれまで選択科目でしたが、今回の改訂により、2022年4月以降に入学するすべての高校生が地理を学ぶことになります。地理総合の重要項目としては、「地理情報システム(GIS)」、「ESD(持続可能な開発のための教育)」、「グローバル(国際理解)」、「防災」、「地域調査」といったキーワードが挙げられています。

地理必修化にあわせて、地理教育向けのWebGISサービスや、教員向けコンテンツ配信サービスなど、学校の授業で使える教材の提供が活発化しています。地理教材のオープン化の動きも進んでおり、地理教師の有志によるコミュニティ「地理教材共有化の会」による「地理教材共有化プロジェクト」が2020に発足し、「地理教材共有サイト」を開設してフリーでオープンな教材を続々と公開しています。同プロジェクトは国土交通省・国土地理院が主催する「Geoアクティビティコンテスト」の2022年度において教育賞を受けました。

地理教材共有サイト
https://sites.google.com/view/geoclass2020/

第2位:Project PLATEAU、「PLATEAU NEXT」を実施

第2位:Project PLATEAU、「PLATEAU NEXT」を実施

国土交通省が主導する3D都市モデル整備プロジェクト「Project PLATEAU」は、2022年度の活動として、13本のイベントから成る「PLATEAU NEXT」を実施しました。同プロジェクトは2020年度から3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化に取り組むとともに、様々な分野においてユースケースの開発を行ってきました。

PLATEAU NEXTでは、ハッカソンやライトニングトーク、ピッチイベントなどを行うとともに、ハンズオンワークショップや地域版ハッカソンも実施し、さらにその集大成となる開発コンテスト「PLATEAU AWARD 2022」も実施しました。

PLATEAU AWARD 2022では70作品が集まり、ファイナリスト17作品が決定され、2023年2月18日に行われた最終審査会ではグランプリやイノベーション賞、エモーション賞、データ活用賞、UI/UXデザイン賞、PLATEAU賞、マッドデータサイエンティスト賞の各賞が決まりました。

PLATEAU NEXT
https://www.mlit.go.jp/plateau-next/

第1位:法務省、地番の情報がわかる「登記所備付地図データ」を無償で公開

法務省は2023年1月23日、全国の法務局の登記所で使われている地図データを、地理空間情報データ流通支援プラットフォーム「G空間情報センター」にて無償で一般公開しました。公開となったのは登記所でコンピュータシステムによる事務処理を行うための地図情報システムに入っている地図データで、「地番」の情報が含まれており、データ形式は加工可能なXMLフォーマットを採用しています。G空間情報センターのウェブサイトからダウンロードすることで、利用規約に抵触しない限り誰でも無料で利用できます。

地番の情報が入った地図が無償で公開されたことの反響は大きく、このデータを使いやすくするための「法務省地図XMLアダプトプロジェクト(AMX Project)」が開始されたほか、株式会社Geoloniaの「法務省地図XML Viewer」や、株式会社マップルの「MAPPLE法務局地図ビューア」など、このデータを地図上に可視化したウェブサイトなどが続々と提供開始されています。また、GISを提供する各社も、登記所備付地図データとの連携を図る動きが活発になっています。

法務省地図XMLアダプトプロジェクト · GitHub
https://github.com/amx-project

法務省地図XML Viewer
https://geolonia.github.io/chiban-viewer/

MAPPLE法務局地図ビューア
https://labs.mapple.com/mapplexml.html

片岡氏のコメント

2022年度はコロナ禍が徐々に落ち着いていく中で、「地理総合」の必履修化や「デジタル田園都市国家構想」基本方針の発表、「海の地図PROJECT」の開始、そして登記所備付地図データの公開など新しい時代を感じさせる重要なニュースが多かったように思います。また、デジタルツインの取り組みも「PLATEAU NEXT」などを通じて着実に進んでおり、来年度も引き続き注目していきたいと思います。

URL

ジオ専業ライターが選ぶ「ジオ界 10大ニュース」イベントレポート – Graphia – 地図や位置情報に特化したWebメディア「graphia(グラフィア)」
https://graphia.jp/article/2022/06/01/528/

【ジオ展2021】ジオ専業ライターが選ぶ「ジオ界 10大ニュース」イベントレポート – Graphia – 地図や位置情報に特化したWebメディア「graphia(グラフィア)」
https://graphia.jp/article/2021/04/27/187/

ジオ専業ライターが選ぶ「ジオ界 10大ニュース」イベントレポート – Geolonia blog
https://blog.geolonia.com/2020/11/27/geoten2020.html

GeoNews – 地図と位置情報のニュースを中心とした情報サイト
https://geo-news.jp/

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