ジオ用語解説「渋滞予測」

国土交通省が発表した資料「効果的な渋滞対策の推進 – 国土交通省」によると、全国の渋滞による損失は年間12兆円、1人あたり年間30時間にものぼり、環境問題や経済効率低下の原因にもなっています。

自治体や有料道路事業者などは渋滞解消のためさまざまな取り組みを行っていますが、その中のひとつとして重要なのが渋滞予測技術の向上です。今回は、この渋滞予測技術の現状と今後について紹介します。

渋滞予測というと、年末年始やゴールデンウイーク、お盆などの休暇シーズンに近付くと発表される高速道路の渋滞予測情報を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。高速道路の場合は事業者ごとに、高速道路上で渋滞がいつどこでどれくらいの長さで発生するのかを予測する担当者がいて、例えば東日本高速道路株式会社(NECO東日本)ではこのような渋滞予測の専門家を“渋滞予報士”という愛称で呼んでいます。

これから発生する渋滞をどのようにして予測するのかというと、基本的には過去数年間の複数の同じ時期の渋滞データを組み合わせて、事故発生などのイレギュラーなデータを除いたり、曜日の並びの違いなどを考慮したりしながら、今年渋滞が発生すると思われる場所を予想します。

渋滞予測情報は、長期休暇シーズンだけでない通常期でも提供されています。例えばJARTIC(日本道路交通情報センター)のウェブサイトでは、日付を指定すると、その日に発生すると予測される高速道路の区間および時間帯、ピーク渋滞長などの一覧が表示されます。

また、GoogleマップのPC版では、交通情報が表示された状態で下部のメニューから[ライブ交通情報]を[曜日と時刻別の交通状況]に切り替えると、該当する曜日と時刻にどこの道路がどれくらい混雑しているのかを確認できます。

このような渋滞予測技術の向上に今後大きく役立つと注目されているのが、AI(人工知能)技術です。過去の渋滞データを教師データとして機械学習させたり、位置情報ビッグデータなど渋滞データ以外のデータを組み合わせたりすることにより、予測精度の向上や、災害や道路工事などイレギュラーな事象が発生した場合への迅速な対応が期待できます。以下に、このようなAIを活用した渋滞予測技術についての事例をいくつか紹介します。

■AI渋滞予知(東日本高速道路株式会社/株式会社NTTドコモ

NTTドコモが同社の携帯電話ネットワークの仕組みを活用して提供する人口の統計情報「モバイル空間統計」のリアルタイム版と、NEXCO東日本が保有する渋滞データを組み合わせて、AI技術を活用することにより、帰宅時間帯の渋滞予測を一部路線において配信しています。AIにより人工と渋滞の関係製を学習し、パターン化した渋滞予知モデルにより、当日の人出をもとに予測するため、天候やイベントなどの影響を考慮した高精度な予測が可能となります。

「AI渋滞予知」の仕組み

■渋滞情報マップby NAVITIME(株式会社ナビタイムジャパン

高速道路上でよく道路が混雑する全国100区間の朝7時から23時までの渋滞を予測し、各区間が通常に比べて混んでいるかをグラフや地図上で表示する「AI渋滞予報」を提供しています。今日の渋滞がその道路のいつもの混み具合と比較してどうなのかを感覚的に把握できるようにすることで、出発前の意思決定の参考にすることができます。AIモデルについては、VICSから配信される渋滞長データを、年末年始やお盆、行楽シーズンも含めた約2年分学習させて開発しました。

AI渋滞予報

■AI渋滞予測モデル(ジオテクノロジーズ株式会社

主要道路だけでなく一般道も対象とした、AIを活用した渋滞予測モデルを採用しており、5分単位で高精細な予測が可能なため、渋滞を回避するルートを高精度に算出できます。リアルタイムの交通情報を入力することにより、事故などの突発的な渋滞の変化にも追従して予測することが可能です。最新の深層学習モデルであるGCN(Graph Convolutional Network:グラフ畳み込みニューラルネットワーク)を組み込むことで複雑に絡み合う条件においても細かい予測を行うことができます。

■渋滞長を予測する時空間AI「QTNN(Queueing-Theory-based Neural Network)」(京都大学/住友電工システムソリューション株式会社

AIを活用して渋滞の発生場所と長さを予測する技術で、交通工学の知見に基づいて混雑の変化と道路網の関係を学習することにより、高精度な渋滞予測が可能となります。警視庁から提供されたデータを使って、都内1098カ所の道路で1時間先の渋滞長を予測する実験を行ったところ、QTNNは平均して誤差40m以下という高精度な予測を達成し、従来の深層学習手法よりも予測誤差を12.6%も削減することに成功しました。

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