【ジオ用語解説】みちびき

日本が運用する“日本版GPS”の衛星測位システム

「みちびき」とは、日本が運用する衛星測位システム「準天頂衛星システム(QZSS:Quasi-Zenith Satellite System)」の愛称で、2018年11月から4機体制で運用が開始されています。

8の字の「準天頂軌道」を採用する日本版GPS

衛星測位システム(GNSS)とは、複数の測位衛星が発する電波を地上の受信機で受け取り、それをもとに位置情報を割り出すシステムのことで、一般的にはGPS(global positioning system)が知られています。GPSは米国が運用するシステムで、それ以外にもロシアの「GLONASS」や欧州の「Galileo」、中国の「北斗(BeiDou)」、インドの「Navic」など様々な国や地域によって独自のシステムが開発・運用されており、みちびきもその一つで、“日本版GPS”と呼ばれることもあります。

「準天頂衛星」という名称は、“準天頂軌道”と呼ばれる軌道の衛星が主体となって構成されていることに由来しています。衛星測位を行うためには最低でも4機以上の測位衛星が見えることが必要で、GPSの場合は30以上の測位衛星によって全地球を周回し、地表全体をくまなくカバーしています。一方、みちびきはアジア・オセアニア地域に特化したシステムであり、衛星が日本付近に長く留まるようにするために、南北非対称の8の字を描く「準天頂軌道」が採用されています。

なお、現在みちびきは4機が運用されていますが、そのうち3機が準天頂軌道で、残りのひとつが赤道上空の静止軌道となっています。準天頂軌道の3機は8時間ごとに順番に現れるため、少なくとも1機以上の衛星がほぼ天頂(真上)の付近に位置することになります。なお、一般的に「準天頂衛星」という場合は準天頂軌道と静止軌道の衛星の両方を合わせて呼び、それぞれ区別する場合は「準天頂軌道衛星」と呼びます。

みちびきはGPSと高い互換性を持ち、対応受信機からはGPS衛星の一つとして見なされます。衛星測位では衛星が4機以上あれば測位が可能ですが、安定した位置情報を得るためにはそれよりも多くの衛星が見えるほうが有利です。山岳地や都市部など、周囲をビルや山、樹木などに囲まれているエリアでは、電波が遮られるため受信できる衛星の数が減ってしまうことがありますが、みちびきの衛星が存在することによって天頂付近の高仰角に位置する測位衛星の数が増えて、より安定した測位を行うことができます。このGPS補完機能は、多くのスマートフォンやカーナビなどで利用することが可能です。

みちびき2号機出典(出典:みちびきウェブサイト

GPSよりも高精度な測位が可能

みちびきにはGPSを補完する役割に加えて、GPSよりも高精度な測位を可能にする機能(GPS補強機能)もあります。代表的なGPS補強機能としては、「サブメータ級測位補強サービス(SLAS)」と「センチメータ級測位補強サービス(CLAS)」の2つがあります。両サービスともに利用にあたっては対応受信機が必要となります。

SLASは、電離圏遅延や軌道、クロックなど誤差を軽減するための情報をL1Sという信号によって送信することで測位精度を向上させる方式です。GPSによる1周波の衛星測位では一般的に測位誤差は約10mと言われていますが、SLASでは約1mの誤差で測位を行えます。補強を送信するために使用するL1S信号は、一般的に利用されているL1C/A信号と同じ形式の電波のため、受信機が安価で小型化を図れるのが特徴です。現在、SLASに対応したGNSSトラッカー(位置情報を取得し、モバイル回線などを使って送信する機器)やドローン、ゴルフ用ウォッチなどが市販されています。

SLASの仕組み(出典:みちびきウェブサイト

CLASは誤差数cmの測位が可能となる方式で、国土地理院が整備している全国の電子基準点のデータを利用して補正情報を生成し、みちびきからL6Dという信号を使って送信します。SLASに比べて受信機が高価となり、受信機本体やアンテナのサイズも大きくなりますが、近年ではCLAS対応受信機の低価格化・小型軽量化が進んでいます。誤差数cmの測位というと、従来は補強信号をモバイル回線などで取得するRTK(リアルタイムキネマティック)という方式が使われることが多かったのですが、RTKは圏外エリアで使うことが難しいため、モバイル回線が不要なCLASの導入が進みつつあります。

CLASの仕組み(出典:みちびきウェブサイト

このほか測位精度を向上させる機能としては、誤差10cm程度の高精度測位を実現する「高精度測位補強サービス(MADOCA-PPP)」もあります。CLASは日本国内の電子基準点の情報をもとに補強情報を生成するため、日本でしか使用することはできませんが、MADOCA-PPPは国内外のGNSS監視局網の観測データに基づいて誤差を計算し、補正データをL6信号で送信することで、日本だけでなくアジア・オセアニア地域で広く利用できます。同サービスについては、2024年度に実証運用が開始される予定です。

また、みちびきの静止軌道衛星を使って、航空機などに向けて測位衛星の誤差補正情報などを提供する「SBAS(衛星航法補強システム)配信サービス」も提供しています。SBASの信号はこれまで国土交通省の運輸多目的衛星(MTSAT)から配信していましたが、同衛星は2020年3月に運用が終了し、2020年4月よりみちびきの静止軌道衛星から配信を行っています。SBASの測位誤差は1m程度と言われています。

測位だけでなく災害関連の機能も提供

みちびきは衛星測位だけでなく、「災害・危機管理通報サービス(災危通報)」や「衛星安否確認サービス(Q-ANPI)」など災害関連機能も提供しています。

災危通報は、防災機関が発表した地震や津波発生時の災害情報などをみちびきを使って送信するサービスで、SLASと同様にL1S信号を使用します。測位衛星からの電波で情報を受信するため、地上の通信網が途絶された状況でも災害情報を取得できます。みちびきの災危通報を受信できる機器としては現在、デジタルサイネージ用のセットトップボックスやETC車載器、レーダー探知機、ゴルフ用ウォッチなどがあります。

災危通報は今後2024年度をめどに、現在の災害情報に加えて、Jアラート(ミサイル発射情報)およびLアラート(避難指示)の配信を開始する予定です。また、東南アジアやオセアニア諸国向けの配信も予定しています。

Q-ANPIは、災害時にみちびきの静止軌道衛星を経由して、避難所の安否情報などを管制局に送信できるサービスです。地上の通信網が途絶された状況でも、避難者数や避難所の状況を通知することが可能です。

7機体制構築に向けて開発・整備が進行中、11機体制に向けた検討も開始

今後の予定としては、受信機で受信した測位信号がみちびきから送信された信号であるかを確認できる「信号認証サービス」が2024年のサービス開始に向けて開発が進められています。これは測位信号のスプーフィング(なりすまし)の対策として導入されるもので、セキュリティの向上が期待できます。

また、現在みちびきは4機体制で運用されていますが、2023年度から2024年度にかけて順次、追加の衛星が打ち上げられて7機体制となる予定で開発・整備が進められています。7機体制となることにより、日本上空に常に4機以上のみちびきの衛星が見えるようになるため、GPSを使わなくてもみちびき単独での持続測位が可能となります。7機体制では準天頂軌道と静止軌道、準静止軌道に各1機の衛星が追加配置されるため、信号の受信可能範囲も広がります。

さらに、2023年6月に改訂された新たな宇宙基本計画では、将来に向けてバックアップ機能の強化や利用可能エリア拡大のため、7機体制から11機体制に向けて検討・開発に着手する旨も加えられました。

みちびきの高精度測位や災危通報などの機能は、単体のGNSS受信機に加えて、農機や船舶、自動車、除雪機、ドローン、腕時計型端末、車載器、海洋ブイなど幅広い製品に採用されています。近年では対応受信機の低価格化が進んでおり、今後も様々な分野で導入が進んでいくことが予想されます。

URL

みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府
https://qzss.go.jp/

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